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ARMはどこへ行く?

ARMはどこへ行く?

 

1. 序

 

本フォーラムにて、「ソフトバンクがARMを買収 – 孫さんは、これから何をするのか?」を題して、ソフトバンクのARM買収を取り上げたのは2016年7月でした。

http://www.dri.co.jp/dri_forum/?p=4598

 

あれから4年が経ち、今度は、ソフトバンクがARMを売却するという報道が飛び交っています。マスコミが売却先候補としては取り上げている企業は、Apple、TSMC、NVIDIA等々になります。又は、再上場という噂にあります。

さて、ARMは、一体、どうなるのでしょうか?

今回は、そこに考察を加えてみます。

 

 

2. ところで、ARMとはどのような企業?

 

ARM社は、プロセッサを中心とする半導体IPのベンダーとして圧倒的なポジションを持っている企業です。これは、スマフォ/タブレット用SoCではApple端末や多くのAndroid端末がARMのIPを使用していること、ソニーPlay Stationや任天堂スイッチがARMのIPを使用していることによります。

又、それだけでなく、NVIDIAのGPUでの採用、ハイエンドサーバでも採用されており、その適用領域を広げつつあります。

とはいえ、具体的には、どのような事をしているのでしょうか?

まずは、そこを明らかにしましょう。

 

例1-         ARM社がセットメーカに提供している事 – Appleを例にして

 

ARM社とApple社の関係は下図のようになります。以下のような特徴があります。

  1. Appleが社内に持っている設計グループがiPhone/iPad用にAx CPUを開発
  2. ライセンスとして受けている設計情報は命令セット (ISA: Instruction Set)
  3. Ax CPUの製造はファウンドリ (A13 BionicはTSMCが生産)

図2-1- ARM社とApple社の関係

 

 

例2-         ARM社が半導体設計会社に提供していること – Qualcommを例にして

 

ARM社とQualcomm社の関係は下図のようになります。以下のような特徴があります

  1. Qualcommが社内に持っている設計グループがスマフォ/タブレット向けSoCを開発
  2. ライセンスとして受けている設計情報は命令セット (ISA: Instruction Set)
  3. Snapdragonの製造はファウンドリ (Snapdragon820はSamsungが生産)

 

図2-2- ARM社とQualcomm社の関係

 

例3-         ARM社がDesignStartプログラムメンバーに提供している事

 

DesignStartプログラムとは、スタートアップ企業向けに2010年に始めたライセンスサービスです。以下のような特徴があります。

  1. 対象は設計能力の低い企業
  2. 以下を提供

(ア) フィジカルIP (レイアウトレベルの回路図) (2010年から)

(イ) Cortex-M0の無料評価

(ウ) Cortex-M0/ M3ライセンスフィーの無料化/商用利用の無料化 (2017年6月以降)

(エ) Cortex-A5のライセンスフィーが前払いのみ (7.5万ドル) (2018年10月)

(オ) Cortex-M1/M3のXILINX FPGA上での利用はラインセンスフィー/ロイヤリティフィーが無料化 (2018年10月)

 

 

図2-3- ARM社とDesignStartメンバーとの関係

 

 

例4-         ARM社とファウンドリのコラボ – TSMCを例にして

 

ARM社とTSMCは、TSMCが半導体メーカに提供する設計ツールを継続的に共同開発しており、以下のような特徴があります。

  1. 設計ツールの対象が、世代を経ることに拡大している。

(ア) 16nmプロセスルールにおいてはCortex-A57対応

(イ) 10nmプロセスルールにおいては、ARM-V8 Aプロセッサ全般に拡大

(ウ) 7nmプロセスルールではデータセンタ機器/ネットワーク機器向けIP

2. ARMとTSMCはWin-Winの関係を深めている。

図x-x- ARM社とTSMCの関係

 

 

このように見てみると、半導体のサプライチェーンの観点からも、エンジニアリングチェーンの観点からも、ARM社は、多くの企業と長期的なWin-Winの関係を築いています。

さて、このような会社を同じく半導体業界の企業が買収すると、どのような事が起きるでしょうか?

それを第3章で考察します。

 

 

3. もし、○○がARM社を買収したならば・・・

 

ソフトバンクのARM買収額は3.2兆円でした。財務状況もありソフトバンクとしては買収額以上の金額で売却したいと報道されています。3兆円規模の金額を出せる企業となると限られてきます。

もし、このような企業が買収すると、何が起きるのか? それを予測してみます。

 

考察1- もし、AppleがARMを買収したならば・・・

 

Apple自身は、IPビジネスで収益を上げる事に重きを置かないでしょう。もし、AppleがARMを買収するとしたら、その目的は

a. スマートフォン/タブレット用SoCプロセッサの独占。Android端末の排除

b.  Mac用プロセッサの供給の確保

c.  IoTデバイス向けSoCの独占

といったところでしょうか。

 

aという側面からは、Googleを中心とするAndroid陣営は独禁法の適用も含めて猛反対をするでしょう。

bという側面からは、X86陣営 (Inltel/AMD)、及びRISC-V陣営は喜ぶでしょう。ARM Processorが市場から消える事になりますから。但し、ARMで開発を進めてきたIoTデバイス・ゲーム機器等のデジタルガジェット・ネットワーク機器・Server・HPC等のICT機器ベンダーは、やはり、反対するでしょう。

cという側面からは、Amazon (AWS)・Microsoft (Azure)・Google (GCP)等のIoT Platform Vendorが反対をするでしょう。

Jobsの遺言の実行にはなるでしょうが、買収完了までの期間や代償を考えると「興味なし」ということが妥当な落としどころとも思えます。

 

考察2- もし、TSMC (ファウンドリ)がARMを買収したならば・・・

 

TSMCとARMは、相性としては良いとは思われます。但し、下図に示しますように、TSMCはファウンドリ業界で圧倒的であり、2020年1Qで54.1%のシェアを持っています。

このような企業がARMを買収することは、各国の独禁法から見て、ハードルが高いと思われます。

又、TSMCが強くなりすぎると、半導体メーカ・機器メーカにとっても

– プロセッサIPはARMだけれど、ファウンドリはTSMC

– プロセッサIPはARMだけれど、ファウンドリはSamsung

– プロセッサIPはRISC-Vだけれど、ファウンドリはTSMC

といった組合せの自由の幅が狭くなると予想されます。

 

SamsungならばARM買収も有り得るでしょう。但し、Samsungの場合は、ファウンドリという側面とスマートフォンベンダという側面があります。

SamsungがARM買収という事態になると、Appleが再度登場というケースもあるかもしれません。

 

考察3- もし、NVIDIAがARMを買収したならば・・・

 

NVIDIAは、PC向けGraphic Boardから始まり、今は、Computer Graphics・自動運転用・Edge Device・Server・HPC等までをカバーするGPUを供給するGPUベンダーである。

参考) DRIフォーラク記事「謎の企業「NVIDIA」を分解する。http://www.dri.co.jp/dri_forum/?p=4857

 

これらGPUはARM社IPを利用しており、NVIDIAとしてはARMを買収することには価値があります。

但し、ARMを買収したとして、その後、NVIDIAはARM IPを業界内で供給し続けるのでしょうか? 既に、NVIDIAはEdgeからServer・HPCで先行企業に果敢に挑戦しています。又、自動運転・CG・ニューラルネットワーク等の特定アプリケーションでも各社と熾烈な競争を繰り広げています。

ARM社が、NVIDIA傘下になっても、これまでと同様にプロセッサIPを業界内で供給する事に疑問が残ります。

供給は今まで通りとしても、ロイヤリティ支払いの都合上、各社はARM社に出荷実績を申告する必要があります。この実績はNVIDIAにも報告されるでしょう。

自社の実績が競争相手のNVIDIAに報告されることを、各社は許容するでしょうか?

各社は、急速にARM離れ・RISC-V移行をしていくと予想されます。

NVIDIA買収で、Apple買収と同様に、プロセッサIPビジネスは、しりすぼみになると予想されます。

 

考察4- もし、AmazonがARMを買収したならば・・・

 

もし、AmazonがARMを買収したならば、AmazonのネットショップにARMのプロセッサIPが陳列されることになるのでしょう。

これは、ある意味、収まりの良い構図とは思われる。

 

但し、AWSはGraviton2 (ARM-baseのServer用CPU)を開発しクラウドサービスを開始しています。

一方、Microsoftは、AzureのARMサーバ上での展開を進めており、又、2020年1月にはSurface Pro X (ARM-Base Surface)の発売を開始しています。

Amazonによる買収を、Microsoftが黙って見ているとは思われない。Googleも、やはり黙って見ていることはないろ思われます。

 

 

さて、どうであろうか?

このように見ていると、やはり、ARM社は、特定の企業の傘下に収まるということではなく、株式市場への再度の上場が、もっとも収まりが良いように、私としては思えてくるのだが。

 

 

4. 終わりに

 

「ソフトバンクがARMを買収 – 孫さんは、これから何をするのか?」にて、私が冒頭で述べた事を再掲する

 

—————————–

1) 序

「ソフトバンクがARMを買収」という記事が、2016年7月19日の日経新聞のトップを飾った。

私事ではあるが、第一印象は「へ?、買えるのだ!」というものであった。

確かに、ARMも企業である以上、M&Aの俎上に行くことは充分に可能である。

しかし、私の頭の中では、ARMはIPの開発・ライセンスを事業とする企業であり、例えるならば、「民営の図書館」であったのである。

ARMは半導体メーカではないし、SoCメーカでもないし、端末メーカでもないし、ファウンドリでない。であるがゆえに、半導体関連企業は、ARMからIP・ライブラリを購入してきた。中途半端な企業が買収すれば、ARMの強みは一瞬にして消える。

その会社が、今回、日本の通信事業者に買収されることになったのである。

————————————-

 

今、ARMの行先を色々な人が注目し、その行く末に関して仮説を打ち上げている。基本的には、どの仮説も「○○社による買収は、業界にとってネガティブ」ということのようである。

誰であれ、中途半端に買収するとARMの強みは一瞬にして消え、図書館を失った半導体メーカは大混乱に陥る、という事は、衆目が一致することである。

 

今回の動きで、半導体メーカは、1社依存のリスクを感じたはずである。

RISC-V等のオープンソースのプロセッサIPの活用が、加速されるのではないであろうか。

 

さてさて、孫社長は、この一件にどのような幕引きを設定するか。

引き続き、注目をしていきたい。

 

筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)

 

 

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