サービスロボット市場の特徴とビジネスチャンス
1.序
前回は産業向けロボット市場の紹介をしましたが、今回はサービスロボット市場の動向を紹介します。
前回でも見ましたが、ロボットを産業向けロボットとサービスロボットと二分することは共通ですが、その後の分類は団体によって異なっています。以下にJETROの場合とIFR (International Federation of Robotics)の分類を示します。但し、今回、IFRの分類を前回よりも粒度をあげて紹介しています。
出典:JETRO資料より筆者が作成
図1-1 ロボット分類 – JETROの場合
出典:IFR資料より筆者が作成
図1-2- ロボット分類 – IFRの場合
このように見ると、サービスロボットは非常に多岐にわたることがわかります。
そして、IFRは市場規模を以下のように見積っています。
表1-Aロボット市場規模
2015年 | 2016年 | 成長率 | ||
産業用ロボット | 出荷数量 | 25.3万台 | 29.4万台 | +16% |
金額 | US$11.1B | US$13.1B | +18% | |
サービスロボット/ プロフェッショナル |
出荷数量 | 4.8万台 | 6.0万台 | +24% |
金額 | US$4.7B | US$4.7B | +2% | |
サービスロボット/ 個人 |
出荷数量 | 540万台 | 670万台 | +24% |
金額 | US2.3B | US$2.6B | +15% |
出典:IFR
今回は、サービスロボット市場を、プロフェッショナル向けサービスロボットと個人・家事向けサービスロボットの二種類に分けて紹介します。
2. プロフェッショナル向けサービスロボットの動向
プロフェッショナル向けサービスロボットは、図1-1に示したように多岐に渡ります。
まずは、ロボットの代表的な事例を紹介します。(下記表参照)
表2-A- プロフェッショナル向けサービスロボット 製品事例
次に、プロフェッショナル向けサービスロボットの市場規模 (数量、金額)を分野別に紹介します。
IFRの予測によると (下記図参照)、プロフェッショナル向けサービスロボット市場は偏りが強く、2016年の数量実績で見ると、物流向け (43%)と防衛向け (19%。87%が無人飛行機)、公共施設 (12.5%)、フィールドロボット・パワードスーツ (それぞれ10%)が大きく、この五種類で95%を占めています。そして、今後を見ても、この5分野が引き続き中心となります。
但し、物流向けは引き続き確実に拡大し、公共施設向けは2倍に拡大し、パワードスーツも拡大します。
結果的に、今後は、公共施設向けが拡大し、物流>公共施設>防衛>パワードスーツ>フィールドとなると予測されています。
出典:IRF
図2-1- 分野別ロボット出荷台数予測
又、金額ベースで見ると (下図参照)、医療向け (34%)、物流・フィールドロボット (それぞれ21%)、防衛 (1 7%)が大きく、この四種で93%を占めています。
持っているサブカテゴリーの本数による部分もありますが、今後も、これらの分野が市場をリードしていくと予測されます。
出典:IRF
図2-2- 分野別ロボット出荷金額予測
平均単価を見ると (出荷台数予測と金額予測を重ね合わせて算出)、医療ロボット ($1M/1億円)>フィールド (US$160K/1600万円)>防衛 ($70K/700万円)>物流 (40K/4000万円)>パワードスーツ (US$7K/70万円) となっています。
同じプロフェッショナルサービスロボットでも、物流向けロボットは規模で稼ぐビジネスであり、医療ロボットやフィールドロボットは機能で稼ぐビジネスと言えます。
出典:IRF
図2-3- 分野別ロボット 平均単価予測
3. 個人・家事向けサービスロボットの動向
個人・家事向けサービスロボットというと、家事・娯楽・身障者支援が主な用途となりますが、2016年時点では、家事ロボットと娯楽ロボットでほぼ100%となります。
以下に、それぞれのロボットの事例を示します。
表3-A-サービスロボット/個人・家事向け 製品事例
分野 | 製品事例 |
掃除ロボット | ![]() iRobot社掃除ロボット (出典:iRobot社) |
娯楽 | ![]() LEGO社ロボット (出典:アマゾン) |
身障者支援 | ![]() 自立支援用下肢タイプ (出典:サイバーダイン社) |
この市場を数量的に見てみます (下図参照)
まず、最初に気づくことは、出荷数量が100万台単位となっており、その規模は産業向けロボット・プロフェッショナル用サービスロボットよりもはるかに大きいものとなっている事です。
次は、家事ロボットと娯楽用ロボットでほぼすべてとなっているということです (家事ロボット:70%、娯楽用ロボット:30%)。身障者向けロボットもあるのですが、5000台程度の出荷となっており、ここでは表記しきれていない規模になっています。但し、今後、目立たない規模ではありますが、増えていくと思われます。
同じ事が、金額ベースでも言えます。
出典:IRF
図3-1- 分野別ロボット 出荷台数予測
出典:IRF
図3-2- 分野別ロボット出荷金額予測
価格的には、家事用ロボット、娯楽用ロボットのいずれもが下図に示すように$500/5万円前後となっており、他の目的のロボットに比較して安価になっています。
出典:IRF
図3-3- 分野別ロボット 平均単価予測
4. サービスロボット市場のプレイヤ構造
IRFの調査によると、サービスロボットサプライヤは数では、欧州が42%、アメリカが35%、アジアが19%となっています。(下図参照) 各分野でみても、アメリカ・欧州の企業が多く、アジアの企業は少ない状況になっています。 (下図参照)
産業向けロボットとは、異なった様相を示しています。
出典:IRF
図4-1- サービスロボット製造者 地域分布状況
出典:IRF
図4-2- サービスロボット製造者 分野別分布状況
5. 最後に
サービスロボットは人間の行動を補助するロボットですが、その利用範囲は広く、一言でまとめる事は不可能です。例えば
– 利用場所は、工場内物流から、都市生活の支援、家屋内での生活支援
– 求められる機能は、外科手術にも対応できる細かさ、建設現場での力仕事に耐えられる頑丈さ、大小様々な物体が散乱した災害現場、家屋内での人の微妙な行動の差分への対応
– 価格としても、数万円から数千万円まで
– 移動方法も、ヒューマノイド/二足歩行、車輪移動型、空中飛行、水中移動
と、非常に多様になっています。
但し、多様であるがゆえに、市場としても寡占になる可能性も少なくなります
又、サービスロボットは、画像処理、会話処理、音声認識、ビッグデータ、センサー、アクチュエータ等、様々な技術を必要としています。しかしながら、これらの技術も、既に確立した技術もあれば、今も試行錯誤中の技術、まだ研究段階にある技術もあります。サービスロボットという技術パッケージも、まだまだ発展途上にあります。このような状況は、大手企業にとってはなかなか参入しにくいものになります。
下図にもあるように、IRFは欧州のサービスロボット企業の特徴として、スタートアップの多さ・中小企業の多さを挙げています。
人工知能・センサー・アクチェータは、まだまだ発展途上であり、今後も、色々な機能がより高品質化し、かつ利用しやすい価格になってくるはずです。
このことは、サービスロボットの適用可能領域の拡大にもなるはずです。
アイデア一つで、様々なロボットを実現し、商用化することができます。
日本でも、中小企業・スタートアップの奮起を期待することで、今回の報告を終わりとします。
出典:IRF
図5-1- サービスロボット製造者 国別分布状況
出典:IRF
図5-2- サービスロボット製造者 会社規模分布状況
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
データリソース社が推奨する市場調査レポート
– テレオペレーション(遠隔操作)とテレロボティクス(遠隔操作ロボット):産業自動化の技術とソリューション 2018-2023年
– ロボティクス市場予測:消費者向けロボット、企業向けロボット、産業ロボット、医療用ロボット、軍事用ロボット、UAV、自動運転車両
– 世界のロボットパワードスーツ(エクソスケルトン)市場 2018-2022年