ATSC 3.0移行は任意
ATSC 3.0への移行は任意で行われてきた。移行期日はなく、放送局はいつでも3.0に移行することが出来るが、現行の1.0での放送も続ける義務がある。1つのチャンネル帯域で1.0と3.0での放送は出来ないので、移行した局は同じ地域の放送局に1.0で放送して来た主チャンネルとサブチャンネルの放送してもらうことを依頼する必要がある。その代償として、チャンネルをATSC 3.0で放送をしてもらう。これを行うのには4~6局が関わる、複雑なパートナーシップが必要で、普及の妨げになっている。Nexstar等の大手放送局所有会社はATSC 3.0への移行を加速するために、FCCに対して1.0での放送を停波する期限を決めることを求めていた。
放送局を代表するNABはトップ55地域の局は2028年2月に、その他の局は2030年2月にATSC 3.0への移行を完了させること、それにテレビにATSC 3.0対応のチューナーを搭載することの義務化をFCCに求めた。しかし、アンテナ視聴世帯は18%程度でしかなく、搭載しても使われない機能を付けても、価格が高くなり、消費者のメリットは無いと、家電メーカーを代表するCTAが猛反対した。また、小規模の放送局、それにLPTV局(低出力局)も移行する費用がないと移行の義務化には反対であった。
FCCはトランプを支持しいる放送局所有会社には協力的である。しかし、FCCが掲げている目的の1つは規則を減らすことで、3.0への移行のための新たな規則作りには消極的であった。代わりにFCCはATSC 1.0での放送を続ける、あるいはATSC 3.0へ移行するのは放送局の判断とし、規制化はしない決定であった。これだけでは現状と同じで、ATSC 3.0への移行を促進することにはならない。FCCはこの決定に続き、3.0に移行した局に対する1.0での放送の継続を求める規制、それに放送局所有規制に関わる規制を廃止をする予定である。
現状では1つの会社が同じ地域で複数の局を所有することは禁じられている。この規制が撤回されれば、放送局所有会社は1つの局でこれまで通りにATSC 1.0で放送をし、別途にATSC 3.0で放送する局を持つことが出来る。ATSC 3.0局は1.0で放送しているネットワークを3.0でも放送し、残りの容量で有料放送を含めた多チャンネル放送、それにデータ配信等の新たな事業に使うことが出来る。
200以上のテレビ局を持つ、Nexstarは66局所有のTegna社を買収する計画をすでに発表している。放送局所有規制の撤回は新たなビジネスの機会を生むが、数社が放送波を独占することも可能にする。1つの会社が地域でより多くの放送帯域を持つことで、放送以外を含めた地域情報のハブになれるとNexstarは語っているが、同時にニュースの多様化が失われるリスクもある。