テレビ放送の衰退を加速させる医薬品広告の規制強化
トランプ政権は処方薬の広告が消費者を惑わせているとして、医薬品の広告規制を強化しようとしている。さらに、薬品会社が使う膨大な広告費が減れば、薬の価格高騰を抑える一石二鳥の効果があるとしている。しかし、これは、減少をしているテレビ放送広告に大きなショックを与え、放送事業の衰退を早めることになる可能性もある。
医薬品のテレビ広告は増え続けてきた。以前は、医薬品の広告には厳しい規制があり、広告内においてその薬のすべての副作用を述べることが義務付けられていた。30秒のテレビ広告では薬の効果を説明する時間よりも、副作用を上げる時間の方が多くなり、医薬品の広告にテレビは使われていなかった。
1997年にクリントン政権は医薬品広告の規制を大きく緩和した。全副作用をテレビ広告内で述べる必要はなくなり、副作用を通知する電話番号、ウェブサイト等を広告内で表示すればよくなった。これにより、処方薬を消費者に直接的に売り込む、テレビ広告の利用が急増した。
Nieman Journalism Labによると医薬品広告の規模は規制緩和前の1996年では$6億であったのが、2024年では17倍近い$101億になっている。規制強化はテレビ放送広告だけでなく、デジタルを含めた広告全体に影響するが、テレビ放送へのインパクトは特に大きい。医薬品広告は年齢が高い視聴者を狙うことが多いので、デジタル広告よりも、視聴者年齢が高い放送広告が使われることが多い。
Statistaによると、テレビ広告の最大スポンサーは小売事業者で、15%のシェアがある。2位から5位はエンターテイメント/メディア(12%)、金融(11%)、医療/医薬(10%)、日用消費財(9%)である。もしも、医薬品のテレビ放送での広告が不可能になれば、TVネットワークと放送局は広告収入の10%近くを失うことになる。インパクトが特に大きいのはニュース番組で、Nieman Journalism Labによると、ニュース番組に占める医薬品広告は24%である。
広告収入が増えている状況であれば、10%の収入減少は乗り切れるが、テレビ放送広告は減少している。eMarketerによると2024年のテレビ放送広告収入は$591億で、この先5年間で、年平均9%の減少があると予想している。医薬品広告の規制強化による10%の減少は大きなインパクトであり、テレビ放送業界の衰退を加速させることになる。