パワー半導体不足が致命的である理由とは?
序
「半導体不足」が騒がれるようになってだいぶ経ちましたが、何が足りないかが、やっと少し具体的になってきました。足りないのはパワー半導体だったようです。
ところで、パワー半導体とは何でしょうか? CPUやメモリとは何が違うのでしょうか?
今回は、そこを対話形式で論じていきます。
質問1) パワー半導体とは何ですか?
基本的な事を教えてください。パワー半導体とは何ですか? CPUやメモリは今までも聞いた事がありますが。新しい技術の半導体ですか?
回答1)パワー半導体は電気エネルギーの流れを制御する部品として、至る場所で使われています。例えば、パワー半導体は、
– 交流電流~直流電流 変換: AC-DC変換、別名インバータ
– 直流電流~交流電流 変換 : DC-AC変換、別名コンバータ
– 交流電源における周波数変換: 50Hz~60Hz変換
– 電圧変換: 例えば、-48Vdcを3Vdcに変圧
– オン/オフ スイッチ
と言った事を行います。
今までは、これらの機能は抵抗・コンデンサ・コイル・絶縁体を組み合わせて実現させていましたが、半導体化することで、小型化・消費電力の圧縮といった事が実現されています。
動作周波数や電力変換容量によって、素材もSI、SiC、GaNと使い分けられています。
下図に、パワー半導体の活用場所とその素材の関係を示します。
このようにして見ると、パワー半導体とは、スマフォ等のデジタル機器、家電、自動車、発電所、鉄道、工場生産設備等々、実は至るところで使われている事がわかると思います。
CPUやメモリはデータを電子化しプログラムにすることで、各種機器の動きを制御します。
パワー半導体は、電気エネルギーの流れを制御することで、各種機器の動きを制御します。
一般的に、電力を駆動エネルギーとして使う分野(モータ・照明等)を強電と呼び、電力を制御信号として使う分野 (情報処理機器、テレビ)を弱電と呼びますが、CPUやメモリは弱電で使う半導体で、パワー半導体は強電で使う半導体になります。
出典:経済産業省
図1-1- パワー半導体の活用場所
最近では、SiCを素材にすることで高電圧・大容量な領域への活用が、GaNを素材にする事で高周波数な領域での活用が進んでいます。SiCベースの半導体や、GaNベースの半導体を次世代パワー半導体とも呼ばれています。
まだ研究段階ですが、絶縁耐圧や熱伝導率・高周波特性に優れたダイヤモンドを使ったパワー半導体も注目されています。
質問2) なるほど。わかりました。ところで、パワー半導体とパワーエレクトロニクスはどう違うのでしょうか?
回答2) 下図を使って説明しますが、パワー半導体はチップ・デバイスが該当し、パワーエレクトロニクスというとアプリケーションが該当します。
例えば、自動車の場合では、パワー半導体は、モータ制御、バッテリ放電制御、バッテリ充電制御等で使われていますが、実際にはバッテリやモータと一体化されています。
電動部品・蓄電部品・電力制御部品を組み合わせて、ある種の機能を実現する仕組みをパワーエレクトロニクスと呼びます。
通常、私たちが見るのはアプリケーションレベルの部品ですし、パワー半導体はバッテリやモータよりもはるかに小さいので気づかない事が多いのでしょう。
まさしく、「縁の下の力持ち」ですね。
出典:経済産業省
図2-1- パワー半導体とパワーエレクトロニクスの関係
質問3) なるほど。で、その「縁の下の力持ちが足りない」、とはどういう事なのでしょうか?)
回答3) 下図に示すように、パワー半導体の市場規模は1兆円弱です。半導体市場全体が53兆円ですから、パワー半導体の比率は2%以下です。パワー半導体の影響力は大きくない、とも思えます。
出典:経済産業省
図3-1- 半導体産業におけるパワー半導体の位置づけ
でも、バリューチェーンとした場合はどうでしょうか? 図1-1を再度、見ていただきたいのですが、パワー半導体は至るところでつかわれています。
この事を具体的に紹介しましょう。
自動車もECU導入で電装品が高まりパワー半導体の利用数が増えてきていましたが、今は、電気自動車も急速に増えています。その場合、パワー半導体は、バッテリ充電、バッテリ放電、モータ電力等の制御でも必要になります。パワー半導体が一つでも欠けると、電気自動車は完成しない訳です。
出典:Infinion
図3-2- 自動車におけるパワー半導体の位置づけ
太陽光発電の場合、太陽光パネルが発電する電力は直流です。一方、電力網は交流ですから、この直流電流を交流電流に変換することが必要です。又、電力網とのバランスを常に維持する事も必要です。このような役割はパワーコンディショナーが担っていますが、ここでも、実はパワー半導体は重要な役割を担っています。
図3-3- 自動車におけるパワー半導体の位置づけ
PC/スマフォ等の最近の電子機器は半導体で動きますが、その場合の電力は3Vdcです。一方、商用電源は100Vacです。電子機器の入力口にはAC-DC変換と電圧変換が必須です。
冷蔵庫・エアコン等は、モータを制御するインバータはパワー半導体ですし、CPU等の制御部は3Vdc電源で動きますから、ここでも、AC/DC変換と電圧変換が必要です。
いずれのアプリケーションにおいても、パワー半導体が欠品すると、製品は完成しません。
その為、市場規模は小さいのですが、多くの分野で生産が止まる事になるのです。
質問4) 市場規模が小さいからといって、軽く見てはいけませんね。でも、それはどの部品においても言える事ですけれど。
「半導体不足で自動車の生産が、エアコンの生産が、冷蔵庫の停滞」と新聞が報道し、家電量販店では「入荷は6月中旬」という張り紙があったりするのですが、その理由がわかりました、
このパワー半導体不足の解消はいつ頃になるのでしょうか?
回答4)パワー半導体ベンダー各社は工場の増設を行っていますので、いずれは解消されるのでしょうが、まだまだ予断をゆるさないところがあります。
ここを話し出すと、今までの2倍の長さになりますので、次号にしましょう。
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
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