巷では、色々な人・企業が、IIoT (Industrial IoT) ソリューションを、ベンダ・ユーザ含めて議論している。展示会にも大勢の人が訪問している。
ところで、IIoTとは何であろうか?
Industrial IoTとは、日本語に訳すと産業界向けIoTソリューションとなるが、一般的には製造業向けのIoTソリューションを指している。
とはいいつつ、IIoTソリューションと一言で言っても、下図に示すように大きく分けて6つの方向を指向している
出典:筆者作成
図1-1- IIoT導入の目的
又、ベンダーが提供しているソリューションやユーザの導入事例を見ても、
– 設備の自律運用への一歩
– 現場作業員の支援 (ウェアラブルデバイス+ネットワーク+サポートセンタ機器)
と、様々な形態がある。
IIoTと一つの単語で括っても、実導入においては、様々なバリエーションがある。今回は、そのバリエーションを整理しつつ (見える化しつつ)、その将来を考えたい。
2.1. IIoTを使った新サービスの事業化
GEによる航空機エンジンの監視・予兆検知はIIoTソリューションとして最も有名な事例の一つである。
下図に示すように、自社製エンジンに多数のセンサを配置し、その稼働状況を監視しデータ化し、PREDIXに収集し、顧客 (航空会社)に提出している。そのデータ収集・分析・予測を、GEは有償サービスとしている。
航空会社は、このデータに基づいて、エンジンの保守・部品交換を進めており、結果的に、燃費改善、あるいは不意の障害による欠航の削減を実現しており、コスト削減に有益となっている。
図2-1- PredixによりGE社が実現した航空機エンジン監視サービス
2.2. レスポンスタイムを重視したIIoTソリューション
製造業において、システムに期待されているタイムフレーム (処理サイクル) はその階層により下図に示すように異なる。
出典:MESとは何か?主要パッケージや生産管理向け11の機能を解説 (ビジネス+IT)
図2-2- 各階層に期待されているレスポンスタイム
SCADA/PLC/DCSに相当するレベル2では、秒/ミリ秒/マイクロ秒での処理サイクルが求められる。このレベルの処理サイクルはPredixのようなプラットフォームの上位層にあるアプリケーションサーバには不可能であり、アプリケーションサーバはSCADA/PLC/DCSのレベルに設置されることになり、Edge Computingと称される事になる。
まだ、成功事例はないが、多くのベンダーがソリューションを提供しており、注目されているセグメントである。
しかしながら、各社各様に中心軸は異なり、重点も異なっている。
重電機器メーカたるGE社の場合、PredixにEdge Computingを取り入れてはいるが、どちらかというと、下図に示すようにGE製の発電機器・航空機エンジン・工作機械の収容を目的にしている。産業機器・SCADA/PLC/DCSレイヤはGE製品で固めて、データの処理加工の部分だけを、サードパーティに開放している。
出典:ITメディア
図2-3- GE社Predix 構造
産業ロボット/CNCメーカであるファナック社の事例を以下に示す。ここでは、Edge Computingの部分に集中しており、産業機器~監視制御機器間をFIELD Systemミドルウェアとして提供しつつ、監視制御へのサードパーティの参入を促している。
出典:IT Media
図2-4- ファナック社 FIELD System
FA機器大手である三菱電機が中心になって設立されたEdgecrossコンソーシアムの事例を下図に示す。コンソーシアルということもあり、機能をレイヤ分割し、インターフェイスでの相互接続と相互運用性を実現させている。レイヤ単位でのサードパーティの参入を可能にしている。
出典:Edgecross Consortiumウェブサイト
図2-5- Edgecross Consortium構成
2.3. 稼働状況や生産物量の「見える化」(定量化)するソリューション
「見える化」と一言では言えども、そこには、「正常に稼働 or 何らかの異常による機械が停止」の二値表示と、数値化してのメータ表示の二つがある。
ここでは、二値表示のIIoTソリューションとメータ表示のIIoTソリューションを紹介する。これらのソリューションでも、遠隔監視・集中監視を実現させている。
2.3.1. 二値表示のIIoTソリューション
下図に、日本のパトライト社が提供するIIoTソリューションを示す。
このソリューションでは、検出器が工場設備の状態を二値判断で、例えば「動いているか/動いていないか」状態を検出し、設備の「見える化」を実現している、
出典:パトライト社
図2-6- Edgecross Consortium構成
3.3.2.メータ表示のIIoTソリューション
下図にKDDIが2018年6月に発表したIIoTソリューションを示す。ここでは、「レベルセンサ」、「流量センサ」、「電流センサ」、「温度センサ」、「振動センサ」の5種類のセンサを用意し、工場の稼働状況の「見える化」を実現している。
又、KDDI社のソリューションの特徴としては、判断機能を、3段階に分けて用意している事である。
– 基本セット:
– 簡易分析オプション
– 高度分析(AI)オプション
出典:KDDI社
図2-7- KDDI社 IIoTソリューション構成
2.4. 作業者支援・管理を目的としたIIoTソリューション
工場の生産ラインでは以下のような事が起きている
– 高齢による引退を理由とする熟練労働者の減少
– 熟練度の低い労働者 (若年労働者や派遣労働者、外国人労働者)の増加
– 生産ラインへの女性導入を目的に、力仕事の機械化
– 労働者教育の費用の圧縮
– ラインで働く人間そのものの減少
– 工場労働者の賃金上昇
– 若年労働者の供給減少
作業効率と労働者安全を確保するためにも、今後、このようなソリューションが多くの工場・生産ラインで導入されると予想される。
2.4.1. ARを使った作業者支援
以下にSAP社とVuzix社 (スマートグラスメーカー)が提供するソリューションの動画を紹介する。
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=wa9mJL-ShBE
出典:Youtube
図2-8- SAP/Vuizi社 IIoTソリューション動画 -ARを使った作業指示
このソリューションの構成は以下のようになっていると予想される。
出典:筆者作成
図2-9- SAP/Vuizi社 IIoTソリューション構成
2.4.2. バイタルセンシングバンドを使った作業員安全管理
工場内には危険な箇所もある。又、労働者削減により、工場内での人が減った事により同僚の異常に気付く機会も減少しつつある。
そのような事態に備えて、下図に示すように、労働者に、バイタルセンサー(身体異常検知)・加速度 (落下事故検知)・GPS (居場所検知)等を実装したバンドを持たせるケースが出てきている。
出典:PC-WEBZINE
図2-10- 富士通 IIoTソリューション構成 – バイタルセンシングバンド
2.4.3. その他 – ロボットの導入
労働者補助・支援の色合いが強いので、今回は、軽く触れる事にとどめるが、工場でも
– パワードスーツ (ATOUN社 MODEL Y) (図2-10)
– 外骨格ロボット (サイバーダイン社 HAL (図2-11)
– 協働ロボット(UNIVERSAL ROBOTS社) (図2-12)
といった形で、ロボットが導入されている。ロボット導入は、IIoTとは、若干、方向が異なるでの、ここでは、その存在の紹介にとどめることとし、別途、扱いたい。
YouTube URL: https://youtu.be/OG1Xjwe92DE
出典:Youtube
図2-11 – パワードスーツ (ATOUN社 MODEL Y)
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=dzDB_5DiAPI
出典:Youtube
図2-12 – 外骨格ロボット (サイバーダイン社 HAL)
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=9ULCRlyMlc0
出典:Youtube
図2-13 – 協働ロボット (UNIVERSAL ROBOTS社)
実際のIoT機器・ソリューションを参照しながら、IoT導入の流れを見ていくと、下図のようになっていると思われる。
出典:筆者作成
図3-1- IIoTと工場の進化の予測
ここでは、製造ラインを中心とした図となっているが、物流に関しても、バーコード/RFID等のタグとロボットを含む搬送機器とサーバを組合わせたIoTソリューションを、マテリアルハンドリング機器メーカがリーダシップを提案している。
長期的にはデジタルツインを一つのゴールとしての生産ライン・サプライチェーンの統合・最適化の追求が進むと思われる。
GE社のPredix、Siemens社のMindsphere、ファナック社のFIELD System、Edgecross ConsortiumのEdge Computingを導入もありうるが、導入範囲の広さ、導入投資の規模もあり、一部の大企業にとどまっている。
大半の企業・工場においては、センサ/アクチェータを導入しての生産ラインの稼働率の”見える化” (定量化)と、それによる効率改善・品質制御が第一の目的となっている。
工場の進化は、複数の眼で見ていくことが必要である。
今後、IIoTは、AIやビッグデータと連携しつつ、デジタルツインを一つの目標として進化していく。
ただ、前章でも見たように、ソリューションとしても、まだまだ統一が取れていない。
PlatformやEdge Computing等が注目を集めているが、実際の導入は、センサ+サーバからである。
導入する工場も、注目技術やバズワードに惑わされる事なく、今、自社工場はどの段階にいるのかを考えて導入したい。
又、ベンダーサイドも、バズワードでユーザをひきつける事に注力するよりも、実質本位で、本当に必要な機能から提供するようにしてほしい。
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
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