1. 序
2018年5月23日、中期経営計画発表の翌日、吉田社長は新聞社等の取材にて
– 「過去10年、やや仕込みが足りなかった」と振り返り、革新的な製品やサービス開発に向けた基礎的な取り組みを重視する事
– 「自分の在任期間で成果が出ないことをやるのは経営の重要な規範だ」と述べ、長期的な取り組みの重要性
を強調した。
20年振りに営業利益で過去最高を更新し、一つの節目を通過したソニーは、これから何をするのであろうか。
今回は、CMOSイメージセンサ (CIS)に焦点を当てて、ソニーの今後を予測してみることにします。
2. ソニーが中期経営計画で発表したこと
ソニーは、世界全体でのイメージセンサの出荷推移を以下のように見ています。
出典:ソニー 2018年中期経営計画
図 2‑1- イメージセンサ市場推移 – 金額イメージ
縦軸が明示されていないので絶対値は明確ではありませんが、ソニーは
– AV領域は縮小
– モバイル領域は引き続き拡大するが、伸びを牽引するセンサ部品はモバイル複眼サブとモバイルセンシング。それも、モバイル複眼サブよりもモバイルセンシングの方が有望
– そして、車載・FA・セキュリティが新たな領域として台頭してくる。
とみているということです。
そして、ソニーはこのような市場の動きをつかみ、モバイルセンシングと車載・FA・セキュリティに注力することで、2020年には
– 営業利益: 1600億円~2000億円
– 売上げ: 1.1兆円 (売上高イメージ)
を達成します、ということのようです。
3. イメージセンサ市場は、今、どうなっている?、これからどうなる?
IC Insights社が2018年3月に発行したO-S-D Reportによると、
– CMOS以外の技術のイメージセンサ (CCD等)の市場規模は2016年には5%の拡大があったが、2017年は2%の縮小
– 元々、CMOS以外の技術のイメージセンサの2017年市場規模は$1.6B (1800億円)であり、CMOSの1/8の規模
– CMOSイメージセンサの比率は54%@2007年→74%@2012年→89%2017と拡大
となり、イメージセンサ市場 ≒ CMOSイメージセンサ (CIS)市場と考えてよい状況になりつつあります。
出典:IC Insights社
図 3‑1- CMOSイメージセンサ (CIS) 市場推移 (2018年5月発表)
イメージセンサー市場において、ソニーは2016年において45%というシェアを獲得したことになります (iHS Markit調査)
出典:iHS Markit
図 3‑2- 2016年イメージセンサ市場ベンダーシェア
しかし、今後、CISの用途は、今後、大きく拡大していきます。
下図にCISの利用先についてのIC Insights社の2016年発表の予測を示しますが、これによると、2015年には、スマートフォン用カメラ・デジタルカメラ (静止画・動画)・PC&タブレットがCISの利用先として84%を占めていますが、2020年には58%に縮小します。代わって、CISの利用先としては、自動車向けが3%から14%に拡大し、セキュリティ機器・産業機器・医療機器向け・その他がそれぞれ6%に拡大します。
出典 IC Insights社
図 3‑3- CIS利用先の推移
さて、ここで、今後の拡大が期待されている自動車向けCIS市場の状況を見てみます。
2013年実績であるが、視界補助カメラ用CIS (合計出荷個数は1989万個)において、ソニーは3位 (出荷個数477万個)になっていいます。1位はOmnivision (同716万個)、2位はAptina (同577万個) (2014年6月にOn Semiconductorが買収)となっています。
出典:iHS Marktit
図 3‑4- 視界補助カメラ用CIS市場ベンダーシェア (2013年)
又、画像認識カメラ用CIS (合計出荷個数は450万個)においては、1位はOmnivision (出荷個数225万個)、2位はAptina (出荷個数180万個)となっており、ソニーは存在していない。
出典:iHS Marktit
図 3‑5- 画像認識カメラ用CIS市場ベンダーシェア (2013年)
このようにみると、ソニーがCIS市場で45%という圧倒的なシェアを持っているが (2016年実績)、それは市場の80%以上を占めているスマートフォン/タブレット向けとデジタルカメラ向けのCISで強いからであり、その大きさが、その他のセグメント、しかも、これからの成長が期待されるセグメントでの弱さを隠している、ということがわかります。
今後、自動車や医療機器・産業機器向けが拡大し、スマートフォンやデジタルカメラの比率が縮小します。
スマートフォン/デジタルカメラ向けCISという比率は縮小するが絶対額は拡大するセグメントでのプレゼンスをキープしつつ、自動車向けや医療機器向け等の新たに台頭するセグメントにて如何にしてプレゼンスを獲得するのでしょうか?
ソニーは、既に台頭が始まっているセグメント、これから台頭するセグメントの獲得に向けて挑戦者となることが課題になっています。
4. ソニーが進めている仕込み
今後、イメージセンサは
– 「きれいに残す=イメージング」をスマートフォン/デジタルカメラから
– 「人に見えない情報も取得する=センシンシング」を自動車や医療機器から
求められることになります。
ソニーは「イメージング」に対しては下図のような仕込みを、「センシング」に対しても様々な仕込みを進めていくとしています。今回は自動車 (特にADAS)、FA、セキュリティ向けのセンシング技術の仕込みの方向を発表しました。
出典:ソニー中期計画報告会
図 4‑1- 「イメージング」技術仕込みの方向
出典:ソニー中期計画報告会
図 4‑2- ADAS向け「センシング」技術仕込みの方向
出典:ソニー中期計画報告会
図 4‑3- セキュリティS向け「センシング」技術仕込みの方向
出典:ソニー中期計画報告会
図 4‑4- FA向け「センシング」技術仕込みの方向
この仕込みを要素技術という観点からまとめると、下図のようになります。
今後、ソニーはイメージングとセンシングという二つの軸に合わせて、性能進化・機能拡張・性能拡張という観点から、CISデバイスそのもの、周辺デバイス、画像処理機能の仕込みを進めていくことになると思われます。
出典:ソニー中期計画報告会
図 4‑5- 要素技術仕込みの方向
その結果として、第二章にも述べたように、2020年には1.1兆円の売上げと1600億円~2000億円の営業利益を達成していく計画なのであろう。
5. 最後に
中期計画では2020年までの事を発表しているが、これだけでは「自分の在任期間で成果が出ないことをやるのは経営の重要な規範だ」という発言への受け皿になっていない。
ここから先はソニーにとってのマル秘事項なのであろうし、実現されるとしても、2030年頃のことになるのであろうが、あえて予想してみたい。
ヒントは、
より「人に近づく」ことで感動を生み出し、持続的な社会価値と高収益の創出を目指す。
という2018~2020年度中期経営方針の副題と推測する。
今後、イメージセンサを始めとして様々なセンサが実用化されるはずであり、それにより、人も含めて現実社会のDigital Twinが生成されるはずです。
又、ソニーは、PSによるゲーム環境・ゲームタイトル、そして、多くの映画・コンテンツを持っています。これらが持つ世界から、ソニーは多種多彩なDigital Twinを生成することができますし、VR/AR/ロボットを介してことである種の3次元プロジェクションを生成するもできます。
この二種類のDigital Twinと3次元プロジェクションを現実世界に統合する環境が、いずれ、消費者に提供されることになるのであろう。
この統合環境は、3Dプリンティング/VR/ARを介することでUniversal Studioやディズニーリゾートのような形となることも考えられるし、アバタを介することで映画「トロン」のような形となることも可能です。
ソニーならば、どちらの形であっても実用化し、消費者に提供することが可能です。
もちろん、この推測とまったく違うことを、ソニーは考えているのかもしれません。
吉田社長が撒いている種と仕込み、そして、いずれ芽吹き開花するであろうサービスに期待したい。
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
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データリソース社が推奨する市場調査レポート
– OSD市場調査 2018年:オプトエレクトロニクス、センサ、ディスクリート半導体市場分析・予測
– 世界のイメージセンサ市場の産業分析と展望 2017-2021年:自動車向けCMOSセンサを中心に
時期 | 出来事 |
2018年 | |
5月 | 吉田社長、「過去10年、やや仕込みが足りなかった」と発言 |
5月 | ソニー、中期経営計画を発表 |
4月 | DepthSense(R)商品群 (TOF方式距離画像センサ)のサンプル出荷開始 |
4月 | 積層型多機能CMOSイメージセンサ構造の開発により,平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)が授与 |
3月 | 営業利益で過去最高を更新 |
2017年 | |
11月 | ADAS用CMOSイメージセンサ(IMX324)のサンプル出荷開始
Mobileye社の「EyeQ 4」、「EyeQ 5」等のイメージプロセッサとの接続を想定 |
6月 | 10µm角画素の裏面照射型TOF方式距離画像センサを発表 |
2月 | DRAMを積層した3層構造の積層型CMOSイメージセンサを発表 |
2016年 | |
10月 | デンソーが、車載用画像センサにソニー製イメージセンサを採用 |
5月 | 1/2.6型・有効画素数2250万画素の積層型CMOSセンサの量産出荷開始 |
5月 | 車載向けCMOSイメージセンサ (IMX224MQV)の量産開始 |
4月 | 半導体事業を「ソニーセミコンダクタソリューションズ (SSS)」として分社化 |
2015年 | |
10月 | 東芝から画像センサ事業 (2014年シェアは1.9%)を200億円で買収 |
10月 | ソフトキネティックシステムズを買収 (ToF方式距離画像センシング技術保有) |
3月 | CCDセンサの製造を2017年3月に停止することを発表 |
2月 | 積層型CMOSイメージセンサ生産能力を2016年6月末までに7.5万枚/月から8万枚/月に増強することを発表。設備投資額は1050億円 |
2014年 | |
12月 | 2014年、CMOS画像センサ市場で40.3%のシェアを獲得 |
4月 | ソニーセミコンダクタ(株)、山形テックを開所。イメージセンサ生産能力を月産6万枚から7.5万枚に拡大 (300mmウェハ換算) |
2012年 | |
10月 | 積層型CMOSセンサ (Exmor RS)をサンプル出荷開始 |
2010年 | |
9月 | Exmor Rの生産能力増強 (1.85万枚/月→2.5万枚)のため、2010年度下期~2011年度で400億円の設備投資を実施。 |
以前 | |
2009年 | 裏面照射型CMOSセンサ (Exmor R)の量産開始 |
2004年 | ソニー社内でCMOSイメージセンサが性能的にCCDを上回る目途がつく。 |
1980年 | ソニー、CCDカラーカメラを製品化 |
1970年 | CCDセンサ開発開始 |