ここ1,2年、IoTが注目されている。ただ、日本ではIndustrial IoT (IIoT)とConsumer IoTを区別しての議論はほとんどない。しかしながら、以下の2つの図に示すように、実はIoT市場においては、IIoTが全体の80%を占めている。
氷山にたとえると、水面上にたまたま突起した頂上のごく一部が、日頃、我々が目にするIoT機器であるウェアラブルデバイス・スマートウォッチであり、水面下に大きな塊として存在する本体が、企業やサービスに隠れて消費には見えてこない本当に大きな需要であるIIoTであることと類似している。
今回は、そのIndustrial IoTについて議論していきたい。
出典:IOTamy
図 1- Industrial IoT vs Consumer IoT
出典:PWCレポート「IIoT (2016年5月発表)
図 2- IIoT支出・Consumer IoT支出
注) IoTの定義 (含まれる機器・サービス)は調査会社・ベンダにより異なる。必然的にIIoTの定義・Consumer IoTの定義も調査会社・ベンダにより異なる。又、同じIoTデバイスでも、使われる場所によりIIoTとして計上される場合もあれば、Consumer IoTとして計上される場合もある。例えば、Connected Carで使われるIoT機器はIIoTかConsumer IoTか?本記事では、そこはケースバイケースで扱うとする。
IIoTとは、一般論としては、法人が事業を目的にサービスの消費者提供を目的に購入するIoTとなる。
市場調査会社やベンダの分析やニュース記事では、その時々の都合にあわせてIIoTの市場分析を行っているが、ここでは、それらが扱っている側面を整理し、その内訳を、具体例を用いて詳解する。
IIoT市場を、”分野・ビジネスドメイン”という側面から見ると、以下のような分類になる。 (ここでは比較参考の為、Consumer IoTの分野・ビジネスドメインも記載する。)
出典:JETRO「米国におけるIoT基盤の動向調査」
図 3- 活用分野によるIIoTとConsumer IoTの分類
IIoT市場を“(出費対象の)構成品”という側面から見ると、以下のような構成になる。
表 1- IIoT構成品分類
第一分類 | 第二分類 | 第三分類 |
機器・デバイス
|
センサー
RFID 産業用ロボット 3D 印刷 分散制御システム 状態監視 スマートメータ GPS/GNSS 自律搬送システム iBeacons カメラシステム 収量モニター 誘導・ステアリング フロー制御 アプリケーション制御機器 |
|
ネットワーキング
技術 |
有線技術 | Ethernet
Modbus Profinet Foundation Fieldbus |
無線技術 | Wi-Fi
ZigBee BLE セルラー通信 衛星通信 |
|
ソフトウェア | 製品ライフサイクル管理
生産実行システム SCADA 停止管理システム 流通管理システム 小売り管理ソフトウェア 遠隔患者モニタリング 交通管理システム 農場管理システム |
<交通管理システム内訳> インテリジェント信号 ビデオ解析 事故検出 経路案内 通信 |
出典:Markets & Markets社調査レポート
IIoT市場を”ソリューション (機器+コンサルティグ)” という側面から見ると以下のような分類になる。
– 遠隔監視サービス
– データ管理
– 分析
– セキュリティ
– その他
IIoT市場を”プラットフォーム”という側面から見ると。以下のような分類になる。
– Connectivity Management
– Application Management
– Device Management
多くの場合、IIoT市場が分析される時にはこれらのいずれかの側面からの分析となる。
例えば、下図のようなIoTデバイス数のデータは、Connectivity ManagementもしくはDevice Managementからの分析となる。
出典JETRO「IoTに係る異業種企業間連携及び欧米連携をめぐる動向」
図 4- IoTデバイス数 (IIoT + Consumer IoT)予測
又、下図はConnected Carという”分野・ビジネスドメイン”に焦点を絞った市場規模予測となる。
出典JETRO「IoTに係る異業種企業間連携及び欧米連携をめぐる動向」
図 5- 世界のコネクテッドカー市場の希望別収益予測
今は、様々な調査会社・ベンダが、その時々の都合に従って特定の側面から、しかも、独特の定義に従って市場分析・報告を行っており、「群盲象を評す」の状態になっている。
事業計画を作成する時には、ある側面に焦点をあてての分析・総合化が必要であるが、データを適切に処理するためにも、適切な判断をくだすために、複数の側面からの評価が必要である。
既に一定の規模を持ち、引き続きの成長が期待できる市場は製造業であり、まだ規模は小さいが成長力という点で期待ができる市場は医療・農業と思われる。
出典:ANSYS社「IoTのエンジニアリング:産業機器」
図 6- IIoT関連の年間投資額と今後5年にわたる成長予測 (業界セグメント別)
以下を考えると、製造業が有望市場とみなされることも当然とも思われる。
– ドイツ・米国・日本等の先進国は製造業の再生を目指し、中国・インド等の新興国も、製造業の強化を目指し、IIoTを導入しての製造業振興策を実施 (下表参照)
– デマンドサイトの製造業各社は、技術革新・人手不足を契機にして、新技術 (AI, ロボット、IoT、AR/VR)の導入に非常に積極的
– サプライサイドを見ても、生産設備ベンダ (FA・ロボット・工作機械)はEdgeをベースにした次世代生産システムを、ITベンダはクラウドをベースにしたプラットフォームを製造業各社に提案 (下表参照)
表 2- 各国・企業におけるIIoTへの取組み
名称 | 発表年 | ||
国家/
業界 |
ドイツ | Industrie4.0 | 2011年 |
米国 | Industrial Internet Consortium | 2014年3月 | |
中国 | 中国製造2025 | 2015年7月 | |
インド | Make In India | 2014年9月 | |
日本 | Connected Industries | 2017年3月 | |
企業 | GE | 「Industrial Internet」コンセプト | 2012年11月 |
Siemens | Mindsphere | 2016年3月 | |
Bosch | Bosch IoT Cloud | 2016年3月 | |
ABB | ABB Ability | 2017年3月 | |
日立 | LUMADA | 2016年4月 | |
三菱電機 | Edgecross | 2017年11月 | |
FANUC | FIELD system | 2016年4月 | |
ARM | mbed | 2014年10月 | |
Microsoft | Azure IoT Suite | 2015年3月 | |
NEC | NEC Industrial IoT | 2015年6月 | |
Amazon | AWS IoT | 2015年10月 | |
Google Cloud Core IoT Core | 2017年5月 |
「Industrie4.0の完成は2030年」とドイツは見込んでいることから考えても、製造業向けIIoT市場は、今後も長期にわたって、活況を呈すると予測できる。
但し、この市場においてはITベンダがサプライサイドに参入することになり、技術革新とも相まって、市場環境は激変し、自らを変革させた生産設備ベンダのみが生き残ることができるであろう。
一方、ITベンダにとっては、工場は新たなビジネスチャンスであり、この市場でポジションを取ることが重要である。
Industrial Internet Consortiumは、IIoT導入先として以下の分野・ビジネスドメインを想定している。
– エネルギー
– 医療
– 製造業
– 鉱山
– 小売業
– スマートシティ
– 輸送機関
製造業に関する標準化をIndustrie4.0中心で行うとした以上、IICは製造業以外の6本に注力をしていくであろう。いずれの分野もトッププライオリティを得るだけの魅力のある市場である。
あるいは、Blockchainを組合せることで、金融業もリストに入れるかもしれない。
IIoTの今後の展開をうらなう意味でも、IICの動きに注目をしていきたい。
偏った見方と思うかもしれないが・・・。
80~90年代、メインフレーム・PC・LANを武器にしてデジタル技術が企業のバックオフィスに攻め込み、業務を一変した、2000年代、デジタル技術はInternetを武器にして、通信・放送・郵便配達・出版業・音楽配信・新聞発行・小売業等に攻め込み、そのビジネススタイルを一変し、主要プレイヤの顔ぶれを一新させた。 次に、デジタル技術は、人工知能・各種センサを武器にして、自動車産業に攻め込みつつある。
今度は、AI・IoTデバイス・ロボットを武器にしたデジタル技術は、製造業をその照準器に収め、そして、弾丸を発射した。これから、色々なことが起きる。
そして、今後、同様のことが、エネルギー、医療、金融業等でも起きる。
これから、あらゆる業界が、デジタル技術導入により、激流にさらされることになる。これまでは、デジタル技術に翻弄されるのはICTベンダだけであったが、今後は、あらゆる業界の企業がデジタル技術の激流にまきこまれることになる。
日本企業には、この緩急が入り混じる激流を泳ぎ切る覚悟を、激流に先手を打つ知恵が、求められている。
その拠り所となるベストプラクティスや知見の開発・提供がITベンダは求められることになる。
最後に、IICが最近採用したトレードマークを送る。
“Things are Coming Together”
すべては束になってやってくる。(こちらの準備・処理容量には、一切、お構い無し)
出典:IIC Web Site
図 7- IICのトレードマーク
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
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