Verizon、Cat M1回線サービスを全米で開始– IoTでVerizonどこに行く?
1. 序
この3月31日、Verizonが他社に先駆けて4G LTE Category M1網を稼働させた。
Verizonは2015年10月に「ThingSplace」というブランドにてIoTプラットフォーム戦略を発表するなど、IoTに積極的に取り組んでいる。
今回は、Verizonの動きを分析し、今後の行方を予測する。
2. IoTに関するVerizonの取り組み
IoTに関するVerizonの取り組みを以下に時系列に示す。
時系列で見ると、VerizonはIoTビジネスを実績先行で進め、ある程度ノウハウが溜まった段階でコンセプト化し、ビジネスとしての水平展開・エコシステム構築に進めていることが分かる。ともするとバズワードになるIoTに対しても、Verizonはステップを踏んでビジネスを進めていることが見て取れる。
年 |
月 |
出来事 |
2014年 |
9月 |
シェアリングサービス向け (車等)プラットフォームを発表 |
10月 |
GE機器をVerizonのM2MとCloud Platformで接続 | |
2015年 |
7月 |
スマートグリッド向け「Grid Wide Utility Solution」を発表 |
10月 |
Verizon、IoTプラットフォーム戦略を発表 | |
2016年 |
2月 |
ThingSpace IoTを第三者Network Service Provider、Technology Service Providerに開放すると発表 (MWC2016発表) |
6月 |
ThingSpaceのAPIをIoT開発者に公開 | |
9月 |
Qualcom、Verizon向けCat M1準拠LTE Modemを発表 (CTIA Super Mobility 2016発表) | |
Sensity Solutionを買収しスマートシティソリューションを強化 | ||
10月 |
ローン専用LTEデータプランを販売開始 | |
2017年 |
2月 |
AT&T, Verizon, NTTドコモ、KDDI等、Cat M1の早期世界展開で合意 (MWC2017発表) |
IoT担当役員 M.Bartolomeo氏、”Mobility As A ServiceはIoTにとって有望市場”と語る | ||
3月 |
Cat M1回線サービスを全米にて開始。 |
3. Verizonが構築したIoTプラットフォームとは
Verizonが展開しているIoTプラットフォームを図にすると、以下のようになる。
図1- Verizon社 IoTプラットフォーム – ThingSpace 構成
ThingSpaceとはIoTサービス・システム開発を容易にするWeb-basedPlatformであり、以下の構成要素を持つ。
– 端末・モジュール
– 汎用回線
– アプリケーション特化型回線 (ドローン専用線)
– コアネットワーク
– Big Data Analytics Engine
– ソリューション (社内開発、共同開発)
– バーティカルソリューション (企業向けアプリケーション) (共同開発)
– API、開発ツール、開発キット
ここからは、各要素について、詳細を見ていきたい。
3.1. 端末・モジュール
公開されたAPIや参照モデルを利用して端末を自力で開発することも可能であるが、既に認証済みの機器を使う事も可能である。品種としては、以下の25種が想定されている。2017年4月現在、製品としては816種、モジュールとしては68種が提供されており、今後も引き続き増えると推測される。
1. 空中輸送機器 (Airborne)
2. アラームパネル (Alarm Panel)
3. 資産管理 (Asset Tracking)
4. カメラ (Camera)
5. フィーチャフォン (Feature Phone)
6. キオスク/サイネージ (Kiosk / Signage)
7. ラップトップ PC (Laptop)
8. モデム (Modem)
9. ネットブックPC (Netbook)
10. ノートブックPC (Notebook)
11. PDA/ハンドヘルド (PDA / Handheld)
12. 対人移動追跡 (People Tracking)
13. 緊急呼び出し (Personal Emergency Response)
14. POS/自動販売機 (Point of Sale / Vending)
15. 遠隔監視制御機器 (Remote Monitoring & Control)
16. ルータ (Router)
17. 音声電話付きルータ (Router with Voice Terminal)
18. スマートフォン (Smartphone)
19. タブレット (Tablet)
20. 遠隔医療機器・医療機器 (Telemedicine / Medical)
21. 電力管理/スマートグリッド (Utility / Smart Grid)
22. 自動車監視機器 (Vehicle Monitoring)
23. ビデオ会議機器 (Video Conferencing)
24. 動画エンコーダ (Video Streaming Encoder)
25. 音声端末 (Voice Terminal)
3.2. 回線種
現在、IoT向け回線としては以下の4種類が提供されている。
1. CDMA1x/EVDO
2. LTE Cat1
3. LTE Cat M1
4. Drone専用回線 (回線としてはLTE Cat1を利用)
LTE回線 2種類の比較を以下に示す。
項 目 |
LTE Cat-1 |
LTE Cat-M1 |
チャンネル帯域 | 20MHz | 1.4MHz |
ダウンストリームスピード | 10Mb/s | 350kb/s |
アップストリームスピード | 5Mb/s | 350kb/s |
通信方式 | 全二重 | 半二重 |
ハードウェアコスト | 3G機器並み | 2G機器並み |
備考 | 2017年3月提供開始 |
IoTデバイスは広帯域回線を必要としない。その意味で、より狭帯域なLTE Cat-M1回線を始めたことは理解できる。
むしろ、興味深いのはドローン専用回線を用意したことである。
今後、他のIoTデバイスに対しても専用回線を提供するとも推測できる。
3.3. 業界向けソリューション
現在は5種類のソリューションが用意されたが、Verizonのウェブサイト上では以下の産業分野がリストアップされている。今後、これらの分野でもソリューションが提供されると推測される。
1. 農業 (Agriculture)
2. 空中輸送 (Airborne Usage)
3. 建設業 (Construction)
4. 流通業 (Distribution)
5. 教育産業 (Education)
6. 金融サービス (Financial Services)
7. 行政機関 (Government)
8. 健康産業 (Healthcare)
9. 病院 (Hospitality)
10. 産業/製造業 (Industrial / Manufacturing)
11. 保険業 (Insurance)
12. 法律 (Legal)
13. メディア・娯楽産業 (Media and Entertainment)
14. 石油・ガス (Oil and Gas)
15. 薬品 (Pharmaceutical)
16. 専門サービス (Professional Services)
17. 不動産業 (Real Estate)
18. 住宅・消費材 (Residential / Consumer)
19. 小売業 (Retail)
20. 運送業 (Transportation)
21. 電気・ガス公共サービス (Utilities)
3.4. バーティカルソリューション
特定企業が顧客となっているソリューションは、現在は2種類が発表されている。更には、顧客が特定されてはいないが、以下3本が発表されている。
– Intelligent Lighting
– Intelligent Traffic Management
– Intelligent Video
今後、これら3本でも顧客が特定され、ソリューションの拡充とともに個々の企業に向けてのバーティカルソリューションも拡充するものと推測される。
又、その延長線として、特定企業向けに開発されたアプリケーションを、一般化して、エコシステムに追加することもありうるであろう。
3.5. エコシステム構築にむけて
ThingSpace上でのソリューション開発を支援するために、以下サービスをVerizonは公開している
– API (回線管理、デバイス管理、データ管理、SMS送受信、地図利用)
– ウェアラブルデバイス参照モデル
– 開発キット
これらの情報公開により、ThingSpace発表時 (2015年10月)は1000社程度であったパートナーが3ヵ月後の2016年2月には4倍の4000社超になっている。
現在は、更に増えていると予想される。
3.6. ThingSpaceでVerizonが考えている事
ThinsSpaceには
– 事業者がサービス基盤として活用 (運用システム等を開発、SaaS)
– 技術開発企業やネットワーク事業者がソリューション基盤として活用 (特定企業向けアプリケーションを開発、PaaS)
– 技術開発企業やネットワーク事業者がモバイルインフラとして活用 (IaaS)
といった顔がある。
Verizonはこれらの顔を場面場面で使い分けるのであろうが、競合他社への対抗を考えると、エコシステムの充実強化・パートナー支援が最優先課題となっているであろう。
現在は、Big Data Analytics Engineに関しては情報公開が少ない。
Verizonが、このBig Data Analytics EngineをThingSpaceでどのように位置付け、情報公開をしていくのか。汎用エンジンとするのか、アプリケーション特化型エンジンのラインアップをどこまで強化するのか?やはり、IaaS~PaaS~SaaSと使い分けていくのであろうか。これも興味深い。
4. Verizonの今後
Verizonは、通信事業者として汎用プラットフォーム提供を指向しつつ、アプリケーションそのもの、あるいはアプリケーションを意識したソリューションを提供している。
その手法としては、外部企業とのコラボというパターンもあれば、API公開・エコシステム構築によるサードパーティの独自展開を期待しているパターンもある。
このようなVerizonの動きに対して、規制当局はどのような裁定を下すのであろうか。ThingSpaceの提供元がVerizon Enterpriseであること、IoT/M2Mサービス市場が小さい事により、今は、まだこの事は話題に上がっていないが、今後に注目してみたい。
しかし、翻って考えると、既にGoogleやMicrosoft等のVerizonと同等規模を持つ巨大なサービスプロバイダー・テクノロジープロバイダーがいて、彼らもファイバーインフラや無線インフラを構築し、みずからネットワーク運営に乗り出しつつある。
視点を広げると、競争状況は存在することになり、独禁法上の問題は存在しないとみなされる可能性もある。その場合、Verizonはアプリケーション提供・ソリューション提供において高い自由度を確保することができる。
又、企業活動のグローバル化に伴い、IoTプラットフォームもグローバル化することが求められる。この場合、Verizonの競合相手は欧州・日本・中国の企業になる。その観点から見ても、Verizonの動きが規制される可能性は小さくなる。
Verizonが、このIoTプラットフォームとエコシステムをどのように発展させていくか? 先入観にとらわれる事なく、柔軟な思考で見ていきたい。
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筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)