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EUでeCall端末の搭載義務が始まる。さて、日本はどうする?

EUでeCall端末の搭載義務が始まる。さて、日本はどうする?

 

eCallシステムとは、EUが開発している次世代事故自動通報システム(ACN: Automatic Collision Notification:事故自動衝突検出通報システム)の名称である。eCallシステムは、eCall端末機能と緊急応答機関 (PSAP:Public Safety Answering Point)、EU内緊急電話番号112、携帯電話回線から構成される。

ACNとは自動車衝突事故に遭遇した人に素早い救援を提供することを目的としたシステムで、エアバッグ動作等を自動車が何かに衝突したと判断しそれをPSAPに自動通知することで (運転手には意識が無い場合もあるので)、救援を呼ぶことができる。EUだけでなく、日本や米国も開発を進めている。

そのeCall端末搭載が、2018年4月以降、EUで新たに販売されるすべての自動車で義務化される。

具体的には、eCall端末を車に実装、テレマティクスのサービスメニューでのPSAP通信機能追加等が想定される。

ACNはConnected Carの一つの側面であり、今となっては、目新しい機能ではない。しかしながら、今回のEUでのeCall端末搭載義務化にともない、日本でもなんらかの議論が始まるとも予想されるので、ここで、状況を整理しておきたい。

 

eCallシステムと何か?

まずeCallシステムの動作を、図1も用いつつ説明する。

1)     エアバック動作・急激な減速等の重大な車両事故を示す現象をeCall端末が検出する。

2)     eCall端末は、自動的にPSAPとの間で音声通話を確立させる (EUの緊急通報用電話番号「112」を発呼)、

3)     eCall端末は、位置情報 (Galileo:欧州版GPSで検出)・車種・燃料種別・車の進行方向等をデータとして発信する。

4)     PSAPは運転手と会話して状況を確認して、適切な救援活動を救急車に依頼する。もし会話が成立しない場合は、受信したデータをもとにして事故現場を特定して、事故の規模も予測して、救急車を向かわせる。

出典:EU Web Site

図1- eCallシステム動作

 

eCall導入により、以下のような効果を得られるとEUは見積もっている。

-        救急サービスが、従来比で、都市部で40%、農村部で50%の時間短縮

-        交通事故死亡者が年間で2500人減少

-        死亡や渋滞に伴う経済損失の軽減化

 

自律走行車は自動車事故撲滅の技術的アプローチの一つであるが、まだ、将来の話である。一方、eCallは事故車両の乗員の損傷重篤化を防ぐ技術的アプローチとして、現時点で実用的である。示された数値への到達度は、現時点では検証しようもないが、一定の成果があがると予想できる。

 

eCallシステム搭載の義務化には、もう一つの側面がある。それは、eCallシステム搭載により、自動車には常に通信回線が搭載されることである。今は過渡期であるが、高い確率で想定しうる時期に、EU圏内ではすべてがConnected Carになる。

EUは、2018年4月の搭載義務化により、2020年にはeCallの普及率は75%になると予想している。

今後、先進的な自動車保険スキームや、盗難車両追跡といった付加サービスが、eCallプラットフォームで展開され、普及していくのであろう。

 

日本のACNへの取組みは?

日本では緊急通報サービスは、株式会社 日本緊急通報サービスが「ヘルプネット」という名称で提供している。

下図にも示すように、「ヘルプネット」は以下のような手順で、メーカ純正ナビゲーションシステム (純正ナビ)で動作する。

1)     エアバック動作その他の重大な車両事故を示す現象を、純正ナビが検出

2)     純正ナビは、ヘルプネットセンターとの音声通話を携帯電話網経由で確立させる。同時に、ACNシステムは位置情報 (GPSで検出)等を携帯電話網経由で送信する。

3)     ヘルプネットセンターは運転手と会話をしつつ、受信したデータをもとにして事故現場を特定して、警察・消防に現場への出動を依頼する。

出典:トヨタ社 ウェブサイト

図2- 純正ナビゲーションシステムにおける緊急通報サービスの動作

日本において、「ヘルプネット」は会員制のオプションサービスであり、利用にあたっては自動車オーナーからの申し込みが必要である。又、ヘルプネットに対応できる純正ナビも限られており、対応純正ナビ搭載の可不可により、ヘルプネットが使える車種と使えない車種がある。

尚、株式会社 日本緊急通報サービスは、ACNを提供するために1999年の発足した企業で、発足にあたっては、以下の40社が株主として出資している。

出典:トヨタ社 ウェブサイト

図3- 株式会社 日本緊急通報サービス 株主一覧 (設立時)

 

ヘルプネットは民間企業が提供するサービスであり、公的組織・インフラとの連携は設定されていない。

緊急通報システムは、いざという時には極めて重要なサービスではあるのだが、現在の日本では、テレマティクスサービスの数あるサービスの中の一つで、オプション加入という位置づけになっている。

トヨタのT-Connect、日産のNissanConnect、ホンダのインターナビといった、完成車メーカが提供するテレマティクスサービスにおいても、各社は、対応しているが、前面にアピールすることに消極である。しかも、緊急通報システムに対応していないナビゲータも、多々ある。

又、規制機関も、「日本のような人口密度の高い国では、緊急通報システムを必要とする過疎地は少ない。ゆえに、緊急通報システムの義務化は不要」という位置づけである。

日本においては、緊急通報システムの位置づけは低くとどまっている。

 

EUの緊急通報システムの今後 – 予想

メルセデスベンツ社は、2012年に緊急通報システム導入を開始し、2014年9月からは全車での標準実装とし、2018年3月には装着車が350万台を突破している。(3.5年で350万台は少なすぎるとは思われるが。)。

そして、メルセデスベンツは35ヵ国 (EU/28ヵ国+日米中等7ヵ国)で緊急通報サービスを提供している。センターの共用もあるであろうが、地域・言語の拡がりを考えると、メルセデスベンツが緊急通報システムに注力していることがうかがわれる(図4参照)。

出典:各種情報を元に作成

図4- 欧州・南北米・アジアに展開するメルセデスベンツ社のPSAP

 

ボッシュは、2017年実績で、総売上げが9.9兆円・自動車関連売上げが6.2兆円の規模を持つ世界最大の自動車部品サプライヤである

そのボッシュは、緊急通報システムに関しても、工場組込み用機器と後付け (シガーソケット装着型 下図参照))の2種類を持っている。

 

 

出典:ボッシュ社ウェブサイト

図5- シガーソケット装着型eCall端末

そして、世界41ヵ国にセンターを運営している。ボッシュ社は部品メーカであり、世界各国 (独仏露日米中韓その他)の完成車メーカに部品を納めているがeCall端末を納品しつつ、「PSAP運用も請け負います」と言えば、中小規模の完成車メーカとの取引において、他の部品メーカに対して大きな差別化ポイントになるであろう。

図6- 欧州・南北米・アジアに展開するボッシュ社のPSAP

 

 

もう一つは、公的機関がACNの運用に関与していることである。112番SOSを通報受付としたシステムは、図7のようになる思われる。

欧州地図はWikipediaから引用

図7- EU各国におけるeCall運用

 

上記の三つの図を比べると、今後、eCall運用に関して、EUと自動車メーカで衝突が起きることも予想される。

しかしながら、完成車メーカは、自社のテレマティクスサービスから緊急通報機能を分離し緊急通報の送信先を112番 (PSAP)に変更することで、衝突を回避するのではないだろうか。

但し、その後は、eCall搭載義務化の流れにのって、各社は、車の買い替え推進も含めて、Connected Car販売を推進することになるのであろう。

更には、先進的な自動車保険スキームや、盗難車両追跡といった付加サービスが、eCallプラットフォームで展開され、普及していくのであろう。

2030年頃、運転はAIで自動化、事故を起こした時の救援要請もeCallで自動化、救援活動もAIが実行、損害賠償の料率eCall端末のログデータを元にAIが自動的に算出、という事になるのかもしれない。

 

一方、ボッシュは、EUとの協力関係を深め、自動車~eCall端末~PSAP~救急/警察の通信プロトコル・データ交換のEU標準化・国際標準化を進め、eCall端末の世界展開を有利にするようにするのではないだろうか。

そして、EUは、この仕組みをボッシュの端末、フォルクスワーゲン・ルノーの自動車、ドイツテレコムの通信網、SAPのソリューションとともに、新興国に売込みに行けば、欧州ベンダーのACNインフラの輸出に有利に働くはずである。

 

終わりに

日本は緊急通報システムを2000年に実用化している。しかも、2015年にはドクターヘリとの連携を実現させている (図8)。先進的な取組みを始めることに否定的ではないし、他国に比べて遅いとは言えない。

出典:「MCPC 成功したモバイル/IoT事例2016」より

図8- ドクターヘリとヘルプネットの連携

 

しかし、その後が中途半端である。車種を限定しての実証実験・トライアル的試行をいつまでも続け、事業に脱皮させない。事業にならないから、プラットフォームにならないから、次に行けない。

その間、他の国では、競合相手の企業は、実証実験を終え、事業としても成立するように仕組みを作り、規模の拡大をさせる。場合によっては複数の国で事業を展開している。

最近、「日本は開発で勝って、事業で負ける」という議論を見かける。

しかし、思い出して欲しい。90年頃、「アメリカは技術で勝って、日本は事業で勝つ」という議論を、日本はしていたのである。

やっていることが中途半端で、実験から事業への移行をさせないことが問題なのである。

欧州は、官民が一体になって、実験を事業に昇華させている。

日本の官民共々の、事業化活動の活性化に期待したい。

 

時期 出来事
2000年月 日本で、株式会社日本緊急通報サービスが「HELPNET」を提供開始
2004年9月 GM、緊急通報システム搭載車を2005年型から拡大 

対象は、「オンスター」を装備する「キャデラック STS」など12車種

この時点では、シボレーとマリブ

2004年9月 GM車で、緊急通報システム搭載車は250万台程度
2005年9月 欧州委員会がEU各国政府にeCall運用を促進するよう声明を発表 

(予算・プライバシー保護その他を理由に、6ヵ国が促進せず)

2009年7月 米国トヨタ、緊急通報システムをオプションで搭載 

(プリウスとレクサスHS250h、ISシリーズ、LX570、RX)

2012年 メルセデスベンツ、緊急通報システムの導入開始
2013年3月 ホンダ、緊急通報システムを開発。インターナビに搭載
2014年9月 メルセデスベンツ、緊急通報システムを全モデルで標準装備
2015年4月 EUでeCall機能の搭載義務化を欧州議会が可決
2015年10月 独コンチネンタル社、eCallシステムの量産開始
2015年11月 日本で、NPO法)救急ヘリ病院ネットワークがD-Call Net (ドクターヘリ~HELPNET連携)の試験運用開始 (本格運用開始は2018年を予定)
2016年6月 ボッシュ社eCallセンターを世界41ヵ国で運営
2016年12月 ボッシュ社、シガーライタ装着型eCallシステムを発売
2016年末 ボッシュ社、日本での「eCall」提供を開始 (端末+コールセンタ) 

eCallサービスセンターは埼玉県志木市に開設

2018年1月 福岡市のテレマティクス実証実験に、ボッシュ社のeCallが参加 

eCall端末はシガーライタ装着型

2018年3月 メルセデスベンツ、緊急通報システム装着車が全世界で350万台を突破 

世界35ヵ国で緊急通報サービスを提供

2018年4月 eCall機能の新車搭載義務化が発効される。

 

筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)

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