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LITHIUM SUPPLY CHAIN / GEOPOLITICS

リチウム供給チェーンの地政学と
主要産出国の市場調査レポート

EV・蓄電池市場の拡大を背景に、リチウムは単なる鉱物資源ではなく、採掘・精製・正極材・セル・リサイクルをまたぐ戦略物資になっています。 本レポートでは、主要産出国、精製集中、輸出規制、国家リチウム戦略、主要プロジェクトを整理し、リチウム供給チェーンの地政学リスクを実務視点で分析します。

約29万t
2025年 世界リチウム鉱山生産
Li含有量・USGS推計
72%
上位3か国の鉱山生産シェア
豪州・中国・チリ
96%
2024年 精製上位3か国シェア
IEA推計
60%超
2035年 中国の精製リチウム供給シェア
IEA見通し
エグゼクティブサマリー

2025年のリチウム鉱山生産は、USGS推計で世界約29万トン、Li含有量ベースに達し、上位3か国のオーストラリア、中国、チリだけで約72%を占めました。 一方で、IEAは精製段階の集中が採掘以上に深刻で、リチウム精製の上位3か国シェアは2024年時点で96%、2030年でも85%とみています。 つまり、地政学リスクの本丸は「埋蔵量」よりも、精製・中間材・技術にあります。

主要結論:リチウム地政学は「採掘・精製・制度」の三層で見る

第一に、採掘集中リスクがあります。2025年の生産は、オーストラリア9.2万トン、中国6.2万トン、チリ5.6万トンに集中しました。 第二に、精製集中リスクがあります。IEAは、精製段階の集中が採掘以上に高いと評価しています。

第三に、制度・輸出管理リスクがあります。ジンバブエは2026年2月に未処理鉱物とリチウム精鉱の輸出を停止し、その後4月には輸出割当と現地硫酸リチウム化を条件とする新ルールを打ち出しました。 供給多角化は、新鉱山開発だけでは不十分です。化学転換、CAM/pCAM、リサイクル、オフテイク契約まで束ねたバリューチェーン設計が必要です。

主要産出国の動向

リチウム供給国の評価では、鉱山生産量だけでなく、政策安定性、下流加工誘致、輸出規制、国家関与の強さを合わせて見る必要があります。 以下は、USGS、IEA、各国政府、企業開示をもとにした主要国の比較です。

国・地域 2025年鉱山生産
Li千t
代表的な政策・制度変化 投資・供給面での含意
オーストラリア 92 重要鉱物加工に対する10%税額控除、CMPTIが制度化。輸出規制はなく、下流加工誘致が中心。 供給安定性は高い一方、コスト高のため価格下落局面では減産・延期が起こりやすい。
中国 62 採掘国でもあるが、より重要なのは精製・電池中間材での支配力。IEAは2035年の精製リチウムで中国が60%超を供給するとみる。 中国由来の供給制約は、鉱石不足よりも化学品・技術・中間材の不足として顕在化しやすい。
チリ 56 国家リチウム戦略の下で公民連携・国家関与を強化。新規CEOL付与と戦略塩湖での国家主導を拡大。 世界級ブライン資源を維持しつつ、案件形成のスピードは政策・競争法・地域合意に左右される。
アルゼンチン 23 RIGIを軸に大型案件への税・外為・通関面の優遇を実施。 ブライン新増設の主戦場。制度インセンティブは強いが、マクロ・インフラ・執行の不確実性は残る。
ジンバブエ 28 2022年の原鉱輸出禁止に続き、2026年2月に未処理鉱物・精鉱輸出を停止。4月に割当・10%輸出税・現地加工義務を提示。 資源量と中国系投資は大きいが、制度変更の速さが長期契約の最大リスク。
供給チェーンのボトルネック

採掘の多角化は進んでいるものの、精製・電池材料・リサイクルでは中国依存がなお高い状態です。 IEAは、最大供給国を除いた「N-1」評価で、2035年のリチウムの残余供給は残余需要の約65%にとどまると試算しています。 表面上の需給が緩んでいても、特定国ショックに対しては脆弱です。

A
鉱山・塩湖開発 資源量・許認可・水リスク
B
精鉱・濃縮ブライン 採掘後の一次処理
C
炭酸リチウム・水酸化リチウム 化学転換が主要ボトルネック
D
正極材・前駆体 CAM / pCAMの集中
E
セル 電池製造能力
F
パック 車載・蓄電池向け統合
G
EV・蓄電システム 最終需要市場
H
使用済み電池・リサイクル 循環供給の戦略領域

採掘案件だけでは安全保障にならない

USGSは、2025年にアルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、中国、マリ、米国、ジンバブエなどで採掘拡張が進んだとしています。 しかし、採掘量の増加だけでは精製・電池材料の集中リスクは解消しません。

精製・中間材の集中が本丸

IEAは、中国が精製リチウムで圧倒的な地位を維持すると見込んでいます。 供給制約は、鉱石不足ではなく、炭酸リチウム・水酸化リチウム・前駆体などの中間材不足として現れる可能性があります。

制度リスクは国ごとに異なる

チリは国家主導モデル、ジンバブエやナミビアは輸出規制、アルゼンチンは投資優遇、豪州は税制支援が中心です。 供給の分散は進んでいますが、制度リスクの性質は国ごとに大きく異なります。

主要企業・プロジェクト比較

主要プロジェクトは、硬岩鉱山、塩湖ブライン、DLE、国家主導型JVなどに分かれます。 供給安定性を見るには、資源品質だけでなく、事業主体、国家関与、下流加工、初出荷時期、オフテイクの有無を確認する必要があります。

プロジェクト 主体 タイプ 現状 地政学的な意味
Greenbushes アルベマール / Talison JV 豪州 硬岩 世界有数の高品位・長寿命鉱山。 同盟国供給の中核だが、下流加工は別問題。
Pilgangoora / Ngungaju PLS 豪州 硬岩 2026年にNgungaju再開、2.0Mtpa拡張検討。 価格回復局面で供給弾力性を発揮しやすい。
Salar de Atacama Codelco / SQM チリ ブライン 2031年以降はCodelco主導の新JVへ移行。 国家関与強化の象徴。資源は極めて優良。
Salar de Maricunga Rio Tinto / Codelco チリ ブライン / DLE 最大9億ドル、2030年末までの初出荷を目標。 Atacama外でのチリ多角化案件。国家過半モデル。
Cauchari-Olaroz Lithium Argentina 他 アルゼンチン ブライン Stage 2で追加4万tpa案、RIGI活用準備。 アルゼンチン成長の代表案件。
Rincon Rio Tinto アルゼンチン ブライン 25億ドル投資、6万tpa計画、2028年初生産見込み。 価格低迷下でも進むカウンターシクリカル投資。
Centenario-Ratones Eramet / Eramine アルゼンチン ブライン 2.4万tpa、2024年後半操業開始。 アルゼンチン増産の現実化を示す案件。
リスク評価

リチウム市場では、世界全体の見かけの供給余剰と、個別工程のボトルネックが同時に存在します。 価格低迷、輸出規制、国家関与、水資源、地域社会、精製集中が複合的に作用するため、単純な需給表だけではリスクを把握できません。

政策・制度変化のタイムライン

リチウム供給チェーンでは、政策変更がプロジェクトの採算性、輸出可否、下流加工の立地に直結します。 特に2020年代半ば以降は、資源国が単なる鉱石輸出から国内加工・国家関与へ軸足を移しています。

2022年:ジンバブエが原鉱輸出を規制

原鉱のまま輸出するモデルから、国内加工を求める政策へ転換。資源国による付加価値取り込みの動きが明確になりました。

2023年:ナミビアが未加工重要鉱物の輸出を規制

リチウムを含む重要鉱物で、国内加工を促す方向が強まりました。アフリカの資源国政策は、長期契約の前提条件を変えつつあります。

チリ:国家リチウム戦略とCEOL

公民連携、国家関与、戦略塩湖での国家主導が強化され、Salar de AtacamaやMaricungaなどで国家企業の関与が重要になっています。

豪州:重要鉱物加工への税制支援

CMPTIにより、採掘だけでなく重要鉱物の加工を国内に引き込む政策が進展。安定供給源としての豪州の戦略性が高まっています。

アルゼンチン:RIGIによる大型投資誘致

税・外為・通関面の優遇により、ブライン新増設の主戦場として存在感を高めています。ただし、マクロ経済・インフラ・制度執行の不確実性は残ります。

結論:国の分散ではなく、工程の分散が重要

採掘だけを豪州や南米に広げても、化学品・CAM・セルで一国依存が残ればリスクは片寄ります。 調達戦略では、オフテイク、共同出資、リサイクル、化学転換能力の確保を一体で設計することが、単純な鉱山投資より重要です。

調達戦略への示唆

実務上の整理として、豪州は安定供給源、チリは国家主導の大規模低コスト源、アルゼンチンは高成長余地、ジンバブエは高リスク高潜在、中国は不可欠だが依存圧縮の対象と位置づけられます。 供給網を強くするには、鉱山権益だけでなく、精製・正極材・リサイクル・契約構造まで含めた設計が必要です。

1. 豪州を安定供給の基礎に置く

硬岩リチウムの供給安定性が高く、同盟国供給として評価しやすい一方、コスト高と価格下落局面での投資延期には注意が必要です。

2. 南米は資源量と制度をセットで見る

チリは国家関与、アルゼンチンは投資優遇という違いがあります。塩湖ブライン案件では、水、地域社会、許認可、外為制度が重要です。

3. アフリカ案件は制度変更リスクを織り込む

ジンバブエなどは資源量と投資余地がある一方、輸出規制や現地加工義務が短期間で変わる可能性があります。

4. 中国依存は精製・中間材で管理する

中国は採掘国である以上に、精製、正極材、前駆体、セル製造で重要です。依存圧縮は鉱石調達だけでは達成できません。

5. リサイクルを二次供給源として組み込む

使用済み電池からの回収は、長期的には供給安全保障と環境対応を同時に満たす領域です。鉱山投資と並行して設計すべきです。

6. FID・建設進捗・オフテイクで検証する

政策発表だけでなく、FID、建設進捗、初出荷、下流オフテイク契約の有無で供給見通しを検証する必要があります。

 

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