自動車・半導体・航空宇宙にみる
高付加価値需要の変化
国内工作機械受注は横ばいでも、需要の中身は変化しています。自動車向けの量産設備需要が弱含む一方で、半導体製造装置、航空宇宙、EV関連部品など、高精度・高難度・少量多品種の設備需要が存在感を高めています。
2025年1〜10月の国内工作機械受注は、総額では前年同期比0.5%増にとどまったものの、用途別の構造は大きく変化しています。一般機械が1,470億円で最大、自動車が713億円、電気・精密が451億円、航空機・造船・輸送用機械が291億円となりました。
特に注目すべきは、自動車向けが減少する一方で、航空宇宙関連が大きく伸びている点です。さらに、半導体製造装置市場はAI関連投資を背景に拡大が見込まれ、工作機械メーカーにとっては量産一般機ではなく、難削材・高精度部品・複合加工・自動化が収益源になりやすい局面へ移行しています。
工作機械市場を単純な受注総額で見るだけでは、需要の質的変化を把握しにくくなっています。自動車、半導体、航空宇宙では、それぞれ求められる機種・精度・営業体制が異なります。
| 需要分野 | 2025年1〜10月 国内受注 | 前年同期比 | 下流指標の読み方 |
|---|---|---|---|
| 一般機械 | 1,470億円 | -1.9% | 基盤需要として最大だが、伸びは鈍い。景気循環の影響を受けやすい。 |
| 自動車 | 713億円 | -7.2% | 世界四輪車生産は弱含み。EV化により、エンジン・トランスミッション中心の設備需要から、電動化部品・金型・複合加工へ移行。 |
| 電気・精密 | 451億円 | -1.5% | 半導体製造装置市場は2025年1,330億ドル、2027年1,560億ドル見通し。恩恵は装置サプライチェーンに深く入る企業へ集中しやすい。 |
| 航空機・造船・輸送用機械 | 291億円 | +43.6% | 日本の航空機・宇宙関連売上は2024年に2兆619億円。難削材・大型部品・高信頼加工の需要が強い。 |
自動車:量産設備からEV関連部品へ
自動車向け工作機械需要は、単純に縮小しているのではなく、投資対象が変化しています。従来のエンジン・トランスミッション向け設備から、eアクスル、熱マネジメント部品、電池ケース、アルミ大型鋳造用金型などへ重心が移っています。
この領域では、単体機械の販売だけでなく、複合加工・自動化・工程集約を組み合わせた提案力が重要になります。
半導体:装置サプライチェーン型の高付加価値需要
半導体製造装置市場は、AI投資を背景に拡大が見込まれています。ただし、国内の電気・精密向け受注は横ばいであり、半導体ブームの恩恵は市場全体へ均等に広がるわけではありません。
重要なのは、真空部品、精密構造部品、装置フレーム、高精度ステージ関連など、装置メーカーの品質要求に応えられる加工領域へ入れるかどうかです。
航空宇宙:難削材・大型5軸加工の回復需要
航空宇宙向けは、チタン合金、インコネル、ステンレスなどの難削材加工が多く、工程安定性と品質保証が重視されます。国内受注でも航空機・造船・輸送用機械向けは大きく伸びています。
この分野では、5軸加工機、大型機、熱変位補償、治具設計、加工条件最適化など、アプリケーションエンジニアリングの価値が高くなります。
工作機械メーカーや販売会社に求められるのは、単に成長産業へ営業することではありません。用途ごとの加工課題を理解し、設備・治具・自動化・品質保証を一体で設計することです。
用途産業を特定
自動車、半導体、航空宇宙、医療などの高付加価値領域を分けて分析
加工課題を整理
難削材、高精度、小ロット、工程集約、検査要件を把握
機種と周辺技術を統合
5軸、複合加工、ロボット、自動計測、稼働監視を組み合わせる
技術営業へ転換
機械販売ではなく、加工条件・治具・品質保証まで提案する
国内外の工作機械メーカーは、高付加価値需要に対応するため、5軸加工、複合加工、自動化、AM、難削材加工などを強化しています。
牧野フライス製作所
大型機や5軸機を航空宇宙、半導体製造装置、医療向けに展開。チタン合金、インコネル、ステンレスなどの難削材加工が訴求軸です。
オークマ
MULTUS U1000/U2000などの小型複合加工機で、医療、精密機器、EV、ロボット向け中小物部品の工程集約と自動化を訴求しています。
ファナック
ROBODRILLは、小型部品の高速・高精度加工で定番機として位置づけられます。半導体、電子部品、精密部品加工との親和性があります。
DMG MORI
航空宇宙・防衛、医療、データハンドリング、電力・エネルギー向けの需要伸長を示し、AMイノベーションセンタや自動化システム工場を強化しています。
- 機会:少量多品種でも単価が高い市場 航空宇宙、半導体製造装置、医療、エネルギーでは、精度・安定性・トレーサビリティが評価されやすく、機械単価や周辺サービスの付加価値を確保しやすい。
- 機会:機械販売からアプリケーション提案へ 加工条件最適化、治具提案、ロボット連携、稼働監視、計測まで踏み込むほど、価格競争を避けやすくなる。
- リスク:自動車投資の方向感が不安定 EV化の進行により、従来の量産設備投資が読みづらくなっている。量の回復待ちではなく、新規部品加工へのテーマ転換が必要。
- リスク:半導体・航空宇宙は参入障壁が高い 半導体は景気循環と政策の影響を受けやすく、航空宇宙・医療は認証、品質保証、顧客承認に時間がかかる。
結論:高収益領域は「量」より「難度」に移る
今後の高収益領域は、自動車の量産一般機ではなく、EV関連の精密部品・金型、半導体製造装置部品、航空宇宙難削材部品、医療関連部品などです。
工作機械メーカーに求められるのは、5軸・複合・計測・自動化をパッケージ化し、業界別ではなく用途別・加工課題別の技術営業を強化することです。
留意点として、本ページの需要規模は主に国内受注ベースであり、海外の最終設備投資額や半導体製造装置市場額とは定義が異なります。
引用サイト・参考資料
日工会 ─ 2025年10月分受注確報
内需業種別受注額を確認するための基礎資料。一般機械、自動車、電気・精密、航空機関連の受注動向を整理。
日本自動車工業会 ─ 2025 日本の自動車工業
国内自動車生産、販売、輸出などの統計を確認するための資料。自動車向け設備需要の背景整理に使用。
日本自動車工業会 ─ 世界生産・販売・保有・普及率・輸出
世界の自動車生産・販売動向を確認するための統計ページ。グローバル需要の弱含みを把握する資料。
SEMI ─ 世界半導体製造装置市場予測
2025年、2026年、2027年の半導体製造装置市場予測を示す資料。AI関連投資と装置需要の関係を把握。
日本航空宇宙工業会 ─ 航空宇宙産業データベース
日本の航空機・宇宙関連売上や産業動向を確認する資料。航空宇宙向け工作機械需要の背景に使用。
IEA ─ Global EV Outlook 2025
世界EV販売台数とEV普及率の動向を確認する資料。自動車向け工作機械需要の質的変化を分析。
牧野フライス製作所 ─ MAKINO Report 2025
航空宇宙、半導体製造装置、医療向けの需要や製品戦略を確認するための企業資料。
オークマ ─ 小型複合加工機 MULTUS U1000/U2000
中小物部品向け複合加工機の製品情報。EV、医療、精密機器、ロボット向け需要の整理に使用。
