獣医用デジタルヘルス×
動物医療市場調査
クラウド電子カルテ、予約・会計、遠隔診療、遠隔画像診断、AI補助診断、保険・医療データ解析まで。日本の獣医用デジタルヘルス市場を、制度整備・導入余地・主要プレイヤーの観点から整理した市場調査レポートです。
獣医用デジタルヘルスは、単なるIT導入ではなく、動物病院や産業動物現場の供給制約を補うインフラ領域として立ち上がりつつあります。日本市場はまだ小規模ですが、制度整備と業務DXニーズが重なることで、今後の成長余地が大きい分野です。
クラウド電子カルテ・予約・会計
クラウド電子カルテ、予約、会計、CRMの統合は、現在の主戦場です。院内のアナログ業務を整理し、スタッフ負荷の軽減と診療オペレーションの標準化を支える基盤になっています。
小動物病院では、単なる記録システムではなく、顧客接点と経営管理をつなぐSaaS基盤としての意味合いが強まっています。
遠隔相談・遠隔診療
遠隔診療は、産業動物では獣医師偏在と長時間往診の課題、小動物では飼い主の利便性ニーズを背景に拡大余地があります。再診、術後フォロー、トリアージなどで実装しやすい領域です。
2024年12月の愛玩動物オンライン診療指針により、相談と診療の線引きが整理され、事業設計の前提が大きく進みました。
遠隔画像診断・専門支援
遠隔画像診断は、専門医不足を補うB2Bサービスとしてすでに実需が見えています。画像読影の外部化は、病院単独では確保しにくい専門性を効率よく利用できる点が強みです。
実運用では、診断の完全代替ではなく、現場判断を支える補助インフラとしての位置づけが先行しています。
AI補助診断・データ活用
AIは、問診補助、トリアージ、画像読影補助、保険データ解析などに広がりつつあります。今の段階では単機能AIよりも、既存ワークフローに埋め込まれた実務型AIの方が採用されやすい構造です。
保険会社や病院グループが保有するデータと結びつくことで、将来的な差別化余地が大きくなります。
市場の見方は「小さなSaaS市場」ではなく「供給制約を埋める地域インフラ」
本テーマでいう獣医用デジタルヘルスは、動物病院向けのクラウド電子カルテ、予約・会計、遠隔相談、遠隔診療、遠隔画像診断、AI補助診断、保険・医療データ解析サービスを含む狭義デジタル市場です。ハードウェアや一般ECは原則として除外します。
日本の獣医療は、人医療ほど標準化されておらず、施設ごとの運用差や院長依存が大きい一方、業務のアナログ度が高いため、DX余地そのものは大きいといえます。対象施設母数は、2025年末時点で小動物・その他13,046施設、産業動物4,154施設、合計17,200施設です。
市場規模はまだ限定的ですが、制度・クラウド・AIが同時に整い始めた初期局面にあり、成長率で見ると動物医療の中でも有望度が高い分野です。
日本の獣医用デジタルヘルスは、制度通知と民間プレイヤーの実装が連動しながら進んでいます。特にオンライン診療と遠隔画像診断は、政策と現場課題が重なることで導入の現実味が高まっています。
2021-12 家畜の遠隔診療活用通知
産業動物領域で遠隔診療の実務整理が始まりました。獣医師偏在や往診負荷への対応策としての意味合いが強い節目です。
2022-08 遠隔診療に係る動物薬取扱い通知
診療だけでなく、薬剤運用を含めた現場実装の整理が前進しました。産業動物分野が先に実務フェーズへ入ったことを示します。
2024-12 愛玩動物オンライン診療指針発出
小動物領域でもオンライン診療の考え方が明文化されました。相談で留めるのか、診療まで踏み込むのかの設計がしやすくなりました。
2025-03 A’alda Vet360周辺提携の具体化
クラウド電子カルテを中心に、周辺機能との接続が具体化。単体ソフトではなく、ハブ型基盤としての競争が見え始めた局面です。
2025-09 AnyMallのAIパートナー投入
AIの用途が概念実証ではなく、具体的な事業導線に入り始めたことを示す動きです。保険・販売・データ活用の接点も広がります。
2026-03 農水省の愛玩動物オンライン診療ページ更新
政策当局による継続的な情報整理が続いており、制度の定着フェーズへ入っていることがうかがえます。
全国の公表統計が乏しいため、本テーマではクラウド電子カルテ、予約・会計、遠隔画像診断、オンライン相談、AI関連利用料などを積み上げるボトムアップ推計で市場規模を整理しています。
| 年 | 推計市場規模レンジ | 中央推計 | 見方 |
|---|---|---|---|
| 2020 | 7億~10億円 | 9億円 | 導入初期。個別SaaS中心。 |
| 2021 | 9億~12億円 | 11億円 | 産業動物の制度整備が追い風。 |
| 2022 | 11億~15億円 | 14億円 | 遠隔活用の実務解像度が上がる。 |
| 2023 | 14億~20億円 | 18億円 | 院内DX需要が拡大。 |
| 2024 | 18億~27億円 | 23億円 | 小動物向け制度整備前夜。 |
| 2025E | 25億~38億円 | 31億円 | 市場立ち上がりが本格化。 |
| 2026E | 31億~47億円 | 39億円 | 提携・ユースケース具体化。 |
| 2027E | 39億~59億円 | 49億円 | 導入施設拡大局面。 |
| 2028E | 49億~74億円 | 61億円 | AI・データ連携が差別化要素へ。 |
| 2029E | 62億~93億円 | 77億円 | 継続課金モデルの定着期。 |
| 2030E | 78億~116億円 | 89億円 | 初期市場から成長市場へ移行。 |
現時点ではまだ寡占市場ではなく、クラウド電子カルテ、遠隔画像診断、保険・AI連携などの領域ごとにプレイヤーが分散しています。
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A'alda Japan / A’alda Y A’alda Vet360を軸に、病院ネットワークと周辺提携を進めるプレイヤーです。単なるカルテではなく、院内外の導線をつなぐ基盤化が焦点になっています。
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SkyVets 遠隔画像診断で約70施設、年約3,300件の読影実績を公表。専門医不足を補うB2Bサービスとして市場の実需を可視化している存在です。
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ミニイク クラウド電子カルテ領域で、病院運営改革を訴求するSaaSプレイヤーです。現場の運用差が大きい市場では、UI/運用設計のわかりやすさが競争要因になります。
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パトラNeo / ペトレルプラス 予約・会計・電子カルテ一体型で、中小規模の動物病院にとって導入しやすいDX基盤です。単機能製品より、現場業務全体をまとめる一体型が選ばれやすい傾向があります。
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Anicomグループ 保険・医療データ・AIを組み合わせる動きが目立つプレイヤーです。動画から感情判定を行うAI特許など、診療外データを含む新しい価値創出の余地があります。
市場トレンドは、院内業務のクラウド化、遠隔専門支援、AIによる補助とデータ活用の三層で進んでいます。重要なのは、単独機能ではなく、既存ワークフローへ自然に埋め込まれるかどうかです。
カルテ・予約・会計・CRMの統合
第一層の主戦場です。診療記録だけでなく、来院導線・会計・継続接点まで一体化することで、導入効果が見えやすくなります。
遠隔画像診断・遠隔相談の拡大
専門医不足や地域偏在を補う用途として、最も導入合理性が高い領域です。特にB2Bサービスとしての継続課金モデルが組みやすい構造があります。
問診補助・読影補助・トリアージ
AI単体の売り切りではなく、電子カルテや相談導線に埋め込まれた形での採用が進みやすい局面です。説明可能性と責任分界が重要な論点になります。
保険・医療データのスコアリング活用
予防、継続診療、契約維持、飼い主コミュニケーションまで含めた活用が考えられます。保険会社起点のデータアセットは将来の差別化要素です。
同じ獣医用デジタルヘルスでも、小動物と産業動物では価値提案が異なります。サービス設計を同一にすると、現場適合性を失いやすいため注意が必要です。
| 領域 | 主なニーズ | 有望サービス | 導入の重心 |
|---|---|---|---|
| 小動物 | 夜間・休日相談、再診、術後フォロー、来院前トリアージ | オンライン相談、電子カルテ、予約・会計、AI問診 | 利便性・安心感・院内効率化 |
| 産業動物 | 往診待機時間削減、動画・画像による一次判断、継続監視 | 遠隔診療、遠隔画像支援、データ監視、B2B運用基盤 | 業務効率・供給制約緩和 |
参考文献・関連リソース
農林水産省 ─ 愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針
愛玩動物オンライン診療に関する制度整理の中心資料です。相談と診療の線引きや適切な実施の考え方を確認できます。
農林水産省 ─ 家畜の遠隔診療
産業動物分野の遠隔診療運用に関する情報源です。供給制約を背景にした政策整理の流れが追えます。
A'alda Japan関連リリース
A’alda Vet360周辺の提携や展開方針を確認できる資料です。クラウド基盤のハブ化戦略を読むうえで有用です。
SkyVets
遠隔画像診断サービスの具体的な提供内容や実績を確認できる公式情報です。市場の実需を把握する際の参照先になります。
ミニイク
クラウド電子カルテの提供内容や現場オペレーション改善の訴求ポイントを把握できます。
パトラNeo
予約・会計・カルテ一体型のDX基盤としての位置づけを確認できるサービス情報です。
ペトレルプラス
動物病院向け業務システムの比較検討で参考になる公開情報です。中小病院向けの実装視点を確認できます。
Anicom AI特許関連
AIと保険・医療データの接続可能性を示す情報源です。将来のデータ活用余地を考えるうえで重要です。
AVMA ─ Telehealth basics
米国におけるテレヘルスの広い定義と考え方を確認できる基礎資料です。国際比較に有用です。
AVMA ─ VCPR
患者固有のテレメディスンが原則として既存VCPR内で行われるという整理の前提を確認できます。
RCVS ─ Under care guidance
英国の“under care”運用を示す資料です。物理的診察を絶対条件としない方向性との比較に向いています。
Frost & Sullivan ─ China Pet Drug White Paper案内
中国市場でオンライン問診やAI支援が投資領域として前景化している背景を見る際の参考資料です。
