通所介護市場
市場調査レポート
通所介護・地域密着型通所介護市場は、在宅生活を支える介護保険サービスの中核です。 本ページでは、老人介護と障害者支援市場の周辺領域を踏まえながら、通所介護市場の市場規模、主要プレイヤー、需要構造、収益モデル、制度改定、DX、将来予測を整理します。
通所介護市場は、老人介護領域のなかでも利用者・家族接点が広いB2C型サービスです。 市場は巨大ですが、2020年度から2024年度の成長率は年平均約0.9%にとどまり、成熟市場としての色合いが強くなっています。 一方で、軽中度者の生活機能維持、入浴、食事、見守り、社会参加、家族介護者のレスパイト需要は安定しており、需要消失リスクは低い市場です。
事業者にとっての論点は、単純な拠点数拡大ではありません。 重要なのは、稼働率、送迎効率、入浴介助加算、個別機能訓練、栄養・口腔関連加算、LIFE対応を組み合わせた収益設計です。 2024年度介護報酬改定以降は、単なる預かり型デイから、機能訓練・認知症対応・入浴・食事価値を持つ専門型デイへの転換が収益差を生みやすくなっています。
本ページでは、通所介護市場を「通所介護+地域密着型通所介護」の合算市場として扱います。 通所リハビリテーションは、医療・リハビリ色が強く、報酬構造も異なるため、原則として除外しています。
市場範囲
本レポートの対象は、通所介護と地域密着型通所介護です。 民間事業者の運営実態では、送迎、入浴、食事、レクリエーション、機能訓練などのサービス構造が近く、利用者・家族から見た代替性も高い領域です。
市場性格
通所介護市場は、低成長ながら需要が底堅い成熟市場です。 高齢者本人の生活機能維持だけでなく、家族介護の負担軽減を支えるレスパイト市場としての性格を持ちます。
競争軸
競争軸は、価格よりも体験価値と運営効率です。 具体的には、入浴、食事、認知症対応、機能訓練、送迎品質、家族への情報共有、居宅介護支援との連携が差別化要因になります。
障害者支援市場との接点
通所介護は介護保険領域が中心ですが、広義の老人介護と障害者支援市場では、日中活動支援、送迎、生活機能維持、家族支援という共通課題を持ちます。 人材・送迎・記録システムの共通化は、複合事業者の論点になります。
収益上の焦点
収益改善の焦点は、基本報酬依存からの脱却です。 加算取得、送迎ルート最適化、曜日別稼働率改善、専門型サービスへの転換が、利益率改善の主要手段になります。
推計式は、市場規模 = 通所介護費用額累計 + 地域密着型通所介護費用額累計です。 2020年度から2024年度までの推移を見ると、コロナ期を挟んで横ばいが続いた後、2023年度以降に緩やかに回復しています。
| 年度 | 市場規模 | 前年比 | 市場評価 |
|---|---|---|---|
| 2020年度 | 1兆6,953億円 | — | コロナ期の影響を受けつつも、在宅支援ニーズを背景に大きな市場規模を維持。 |
| 2021年度 | 1兆6,905億円 | -0.3% | 感染対策・利用控えの影響が残り、微減。 |
| 2022年度 | 1兆6,884億円 | -0.1% | 横ばい圏で推移し、成熟市場としての安定性が目立つ。 |
| 2023年度 | 1兆7,329億円 | +2.6% | 利用回復と加算取得の影響により、再び拡大。 |
| 2024年度 | 1兆7,584億円 | +1.5% | 大幅成長ではないが、安定拡大型の市場として継続。 |
通所介護
76.1%。通常規模型・大規模型を中心に、全国チェーンや複合介護事業者が展開しやすい領域です。
地域密着型通所介護
23.9%。小規模・地場色が強く、地域の生活圏に密着した少人数型サービスと相性がよい領域です。
通所介護市場では、単独のデイサービス運営だけでなく、訪問介護、居宅介護支援、老人ホーム、障がい支援、福祉用具などとの連携が競争力になります。 ここでは代表的な大手・準大手プレイヤーを比較します。
| 事業者 | デイサービス特徴 | 強み | 補完導線 | 公式情報 |
|---|---|---|---|---|
| ツクイ | デイサービスを中核に長年展開。 | 豊富な運営実績、人材育成、在宅介護サービス網。 | 在宅サービス、居住系サービス、介護相談導線。 | ツクイ デイサービス |
| ニチイ学館 | 通所介護を全国で提供。 | 約1,900拠点規模の総合介護ネットワーク。 | 訪問介護、居住系サービス、家事代行等との接続。 | ニチイ 通所介護サービス |
| SOMPOケア | 一般デイに加え「ハッピーデイズ」などを展開。 | 食事、体験価値、オンライン活動、居住系との連動。 | 訪問介護、老人ホーム、ケアマネジメント。 | SOMPOケア 通所介護 |
| ALSOK介護 | 「遊」「かたくりの里」ブランドで展開。 | イベント、レクリエーション、地域密着色。 | 入居系サービス、訪問介護、居宅介護支援。 | ALSOK介護 デイサービス |
| ケア21 | 一般デイ、認知症対応型、機能訓練強化型を運営。 | 専門特化型ラインの多さと横断運営。 | 訪問介護、障がい支援、施設系サービス。 | ケア21 デイサービス事業 |
大手介護事業者は、通所介護単体で利益を最大化するだけでなく、居宅介護支援や訪問介護、施設系サービスとの連携によって利用者接点を広げています。
ツクイ ─ デイサービス運営の厚み
通所介護を在宅介護サービスの主要接点として活用。標準型デイの運営ノウハウと人材育成が強みです。
ニチイ学館 ─ 全国ネットワーク型
全国拠点網を背景に、地域ごとの介護ニーズを拾いやすい構造。訪問介護や居住系との接続が可能です。
SOMPOケア ─ 体験価値型
食事、オンライン活動、レクリエーションなど、単なる預かりではない体験価値を打ち出しやすい事業者です。
ALSOK介護 ─ 地域密着・イベント型
地域イベントや生活参加型のプログラムにより、本人の社会参加と家族の安心感を訴求しやすい構造です。
ケア21 ─ 専門特化ライン
認知症対応型、機能訓練強化型など、ニーズ別にデイサービスを分ける戦略と相性があります。
通所介護の中心顧客は、要介護1〜3の軽中度層です。 重度者市場というより、日中の見守り、入浴、食事、生活機能維持、孤立防止、家族介護者の休息を支える市場として見るべきです。
- 一般型デイサービス 入浴、食事、見守り、レクリエーションを中心とする標準型サービスです。市場の裾野は広い一方、差別化しないと価格・立地・送迎利便性で比較されやすい領域です。
- 認知症ケア特化型 認知症高齢者の生活リズム維持、家族支援、少人数対応を重視するタイプです。職員教育と事故予防、家族コミュニケーションが競争力になります。
- 機能訓練・リハ特化型 個別機能訓練、運動プログラム、ADL維持を訴求するタイプです。通所リハとの差別化には、生活機能に寄せた成果説明が重要です。
- 入浴・食事強化型 自宅での入浴や食事準備が難しい利用者に対して、日常生活支援の実感価値を提供するタイプです。家族側の利用継続動機が強くなります。
- 地域密着・少人数型 小商圏での関係性、送迎距離の短さ、顔の見える運営を強みにするタイプです。人口密度が低い地域では、送迎効率の管理が収益上の鍵になります。
収益モデルは、日額の介護報酬 × 利用回数 + 加算 + 食費等の実費収入です。 2024年度市場規模と月間受給者数から見た簡易月次売上 proxy は、1人当たり約12.4万円/月です。
稼働率管理
曜日別・時間帯別の定員充足率を可視化し、空き枠を減らす。
送迎効率化
送迎ルート、車両、商圏範囲を見直し、移動コストを抑える。
加算取得
入浴、個別機能訓練、栄養・口腔、ADL維持等を組み合わせる。
LIFE対応
データ提出と記録業務を標準化し、質評価への対応力を高める。
専門化
認知症、入浴、機能訓練、食事などの強みを明確化する。
制度改定・DX・加算取得が収益差を生む
2024年度介護報酬改定では、通所介護等の入浴介助加算、LIFEへの提出頻度、ADL維持等加算、アウトカム評価などが見直されました。 これは、単なる事務負担の変更ではなく、介護サービスの質をデータで示す方向への移行と捉えるべきです。
通所介護市場におけるDXは、ロボット化よりも、送迎計画、モバイル記録、機能訓練プログラム管理、栄養・口腔情報の連携、事故予防で効果が出やすい領域です。 とくに地方では、送迎ルート最適化と稼働率改善が営業利益に直結します。
制度対応の詳細は、厚生労働省の 令和6年度介護報酬改定における改定事項 および 科学的介護情報システム(LIFE)について が基礎資料になります。
2025〜2029年度のベースライン成長率を2.0%と置くと、2029年度の市場規模は約1兆9,414億円です。 弱気ケースでは横ばい、強気ケースでは約2兆884億円まで拡大する余地があります。
成長率0%。人手不足、送迎コスト、地域人口減少により市場が横ばいで推移するシナリオです。
年率2.0%。認知症対応、機能訓練、入浴、食事強化などの専門化が緩やかな成長を支えるシナリオです。
年率3.5%。加算取得、DX、稼働率改善、専門デイの普及が進むシナリオです。
通所介護市場は、需要が安定している一方で、労務費・送迎費・食材費・水光熱費の上昇を受けやすい市場です。 そのため、一般型デイのまま総量勝負をするのではなく、サービス設計と運営KPIの再構築が必要です。
認知症・入浴・機能訓練・食事のいずれかで強みを作る
標準型デイのままでは比較対象が多くなります。選ばれる理由を明確にするため、専門性を持つサービスラインを設計することが重要です。
商圏・車両・時間帯をKPI化する
送迎効率は、通所介護の利益率を大きく左右します。利用者密度、送迎時間、車両稼働率を定期的に見直す必要があります。
基本報酬依存から脱却する
入浴介助、個別機能訓練、栄養・口腔、ADL維持等加算を組み合わせ、利用者単価の底上げを図るべきです。
居宅介護支援・訪問介護・福祉用具と連携する
自社内または地域内での紹介導線を強化することで、稼働率を安定させやすくなります。単独拠点よりも複合運営の優位性が出やすい市場です。
軽中度向けと中重度向けの運営を分ける
利用者状態が混在しすぎると、職員負担と事故リスクが高まります。サービスラインを分け、配置とプログラムを最適化することが望まれます。
LIFE入力と記録業務を標準化する
制度対応を現場任せにせず、記録・評価・提出の業務フローを標準化することで、加算取得と品質改善を両立しやすくなります。
引用元・参考資料一覧
厚生労働省 ─ 令和6年度 介護給付費等実態統計の概況
2024年度の通所介護・地域密着型通所介護の費用額累計、市場規模推計の基礎資料。
厚生労働省 ─ 令和5年度 介護給付費等実態統計の概況
2023年度の市場規模、サービス別費用額、受給者動向を確認するための資料。
厚生労働省 ─ 令和4年度 介護給付費等実態統計の概況
2022年度の通所介護市場の横ばい傾向を確認するための資料。
厚生労働省 ─ 令和3年度 介護給付費等実態統計の概況
2021年度の費用額累計とコロナ期の市場動向を把握するための資料。
厚生労働省 ─ 令和元年度 介護給付費等実態統計の概況
過年度比較のための公的統計資料。通所介護市場の長期推移を読む際に参考になります。
厚生労働省 ─ 令和6年度介護報酬改定における改定事項
入浴介助加算、LIFE、ADL維持等加算など、通所介護事業者に影響する制度改定の基礎資料。
厚生労働省 ─ 科学的介護情報システム(LIFE)について
科学的介護、データ提出、質評価への対応を理解するための公式情報。
ツクイ ─ デイサービス
大手通所介護事業者のサービス内容、利用導線、在宅介護サービス展開を確認できます。
ニチイ ─ 通所介護サービス
全国型介護事業者における通所介護サービスの提供内容を確認できます。
SOMPOケア ─ 通所介護
食事・体験価値・オンライン活動などを含む通所介護サービスの参考事例。
ALSOK介護 ─ 通所介護・デイサービス
「遊」「かたくりの里」など、地域密着型の通所介護サービスを確認できます。
ケア21 ─ デイサービス事業
一般デイ、認知症対応型、機能訓練型など、専門型デイサービスの比較参考になります。
