高齢者向けパーソナルモビリティの
市場調査レポート
高齢者向けパーソナルモビリティは、電動車いすやシニアカー、施設内モビリティサービスなどを含む成長分野です。高齢化の進展を背景に、安全基準、介護・福祉制度、施設導入を軸に市場が広がっており、製品販売だけでなくサービス型の導入拡大も注目されています。
(2024年)
(2030年)
(2024年度・協会会員合計)
高齢者向けパーソナルモビリティ市場は、主に電動車いす(ジョイスティック形)、ハンドル形電動車いす(シニアカー/電動カート)、そして空港・商業施設・観光地などで展開が進むサービス型モビリティに分かれます。日本では制度・安全基準との整合性が強く求められ、単なる製品市場ではなく、福祉・交通・施設運営を横断する市場として理解することが重要です。
ハンドル形電動車いす市場
日本国内の出荷台数では、ハンドル形が市場の中心です。2024年度は14,633台で、協会会員合計出荷の約74.5%を占めました。
近隣移動や買い物、通院などの生活利用が中心で、安定性、操作の分かりやすさ、保守体制が競争力を左右します。
ジョイスティック形電動車いす市場
ジョイスティック形は、旋回性や姿勢保持、室内外での細かな操作性が重視されるセグメントです。2024年度の国内出荷は4,143台でした。
医療・リハビリ・福祉の文脈と結び付きやすく、利用者特性に応じたカスタマイズ性が差別化要因になります。
施設内モビリティサービス市場
近年は、空港、商業施設、観光地でのレンタル・配備型サービスが市場の裾野を広げています。
製品単体の販売ではなく、施設運営、清掃・保守、回送、利用導線まで含めたB2B2C型の市場形成が進んでいます。
介護・福祉制度連動市場
高齢者向けパーソナルモビリティは、介護保険や福祉用具の制度との接点が大きく、導入は価格だけで決まりません。
貸与・給付・選定基準を踏まえたチャネル設計が必要であり、制度理解がそのまま販売効率や普及速度に影響します。
安全・共存設計市場
高齢者モビリティは歩行者空間で利用されるため、最高速度6km/h、突出部の回避、視認性などの安全要件が重要です。
今後の競争は、事故防止機能や教育コンテンツを含む安全パッケージ化にも広がっていくと考えられます。
公開市場データでは、世界の電動車いす市場は2024年44.9億米ドルから2030年90.5億米ドルへ、日本市場は2023年7,570万米ドルから2030年1億3,020万米ドルへ拡大するとされています。日本では人口動態が追い風である一方、実需は制度、チャネル、安全性によって左右される構造です。
- 世界市場 Grand View Researchでは、電動車いすの世界市場を2024年44.9億USD、2030年90.5億USD、CAGR 12.3%と推計しています。高齢化、障害者支援、医療・介護用途の広がりが成長を支えます。
- 日本市場 日本市場は2023年7,570万USDから2030年1億3,020万USDへ拡大する見通しで、CAGRは8.1%です。世界に比べ成長率はやや穏やかですが、高齢化率の高さを背景に底堅い需要基盤があります。
- 国内供給量の実態 国内出荷台数は、協会会員合計ベースで2023年度20,873台、2024年度19,632台でした。直近は減少していますが、これは市場全体の縮小を直ちに意味するものではなく、会員外流通や更新需要のタイミングも考慮する必要があります。
- 構成比の特徴 2024年度の内訳は、ジョイスティック形4,143台、ハンドル形14,633台、介助用856台でした。大量市場の主戦場がハンドル形である一方、介助用比率の上昇も確認されます。
高齢者向けパーソナルモビリティの成長は、単純な高齢者人口の増加だけでは説明できません。人口構造、介護・医療ニーズ、施設導入、そして交通・歩行者空間との整合が重なって市場を形成しています。
高齢化の進展
高齢化率の上昇が需要基盤を継続的に押し上げる
介護・医療需要
通院・介護・リハビリ移動の必要性が拡大
施設導入の拡大
空港・商業施設・観光地でのサービス型利用が進展
制度と安全基準
歩行者扱い要件や福祉制度との適合が普及を左右
規制・安全基準が市場構造を決める
日本では、一定要件を満たす電動車いすは道路交通法上「歩行者」として扱われます。警察庁が示す要件では、最高速度が6km/h以下であること、鋭利な突出部がないこと、外観で自動車等と識別可能であることなどが重視されています。
このため、高齢者向けパーソナルモビリティ市場は、自動車市場のような高性能化一辺倒ではなく、安全・共存・制度適合が製品設計と普及戦略の中心になります。安全教育や利用ガイドの整備も、今後は競争優位の一部になりえます。
また、制度史としては、1974年の警察庁通達、1987年の速度要件見直し、1992年の型式認定制度開始、2009年のJIS制定などを経て、現行の運用枠組みが形作られてきました。
技術競争は、速度や出力の拡大ではなく、安全性、操作性、持ち運びやすさ、保守性、コネクテッド化、そしてサービス運用との適合に集約されています。特に高齢者向けでは、使い始めの心理的ハードルを下げる設計が重要です。
安全設計の強化
転倒や誤操作を抑える設計、低速制御、安定した走行性が基本競争軸です。JIS整備や型式認定の枠組みも、安全性の標準化を後押ししています。
可搬性・軽量化
折りたたみや積載しやすさは、外出機会を広げる重要要素です。自宅利用だけでなく旅行・外出・送迎との組み合わせ需要にも影響します。
直感的な操作性
高齢者向けでは、学習負荷の低いUIが普及の前提です。ハンドル形の強さは、操作理解のしやすさにあるとも言えます。
コネクテッド・保守DX
状態監視、故障予兆、運用管理などのデジタル化は、特に施設導入型サービスで価値を発揮します。単体販売より継続収益化と相性が良い領域です。
施設内サービス化
WHILLのように、空港や商業施設での導入を広げる企業は、製品性能だけでなく運営パッケージ全体で差別化しています。
チャネル別最適化
量販、介護レンタル、補装具、施設契約では求められる仕様や営業手法が異なります。市場攻略にはセグメント別の商品・販路設計が必要です。
グローバルではPermobil、Invacare、Sunrise Medical、Pride Mobility Productsなどが知られ、日本文脈ではWHILL、スズキ、ヤマハ発動機、Permobilなどが主要なプレイヤーとして整理されます。競争は「量販型」と「高付加価値型」「サービス型」に分かれやすいのが特徴です。
ハンドル形中心の普及モデル
低速・歩道利用を前提に、分かりやすい操作性と安定性で市場のボリュームを形成する領域です。介護レンタルや地域販社との連携が重要になります。
デザイン・快適性・機能差別化モデル
操作性、デザイン性、可搬性、先進機能などを訴求し、価格競争を避けながら新規需要を取り込む領域です。
施設導入・レンタル運用モデル
空港・観光地・商業施設向けに、運用保守を含むモビリティサービスとして提供するモデルです。B2B2C型で導入施設の拡大が競争優位になります。
高齢者向けパーソナルモビリティの需要は、単なる移動手段ではなく、自立した生活の維持や社会参加の継続に直結します。生活圏移動、通院、施設内移動という3つの利用シーンで需要を把握すると理解しやすくなります。
- 買い物・近隣移動 主利用者は高齢者本人で、必要機能は低速安定走行、段差対応、荷物の積載性です。購入・レンタルいずれの形態も成立しやすい用途です。
- 通院・リハビリ 高齢者や障害者が対象となり、姿勢保持、細かな操作性、介助との相性が重視されます。医療・福祉チャネルとの接続が強い用途です。
- 施設内レンタル 観光客や来訪者も利用対象になり、操作の簡便さ、保守性、清掃や回送のしやすさが重要です。施設契約型のサービスとして拡大余地があります。
今後の課題と推奨戦略
最大の課題は、歩行者空間での安全と共存です。速度、視認性、段差、誤操作、ルール理解不足は、事故や苦情の原因になりやすく、普及の制約にもなります。
そのため事業戦略としては、安全設計の標準化、介護・福祉チャネルの最適化、施設導入向けのサービス化の3軸が有効です。需要基盤は人口動態で支えられていますが、実際の成長を取り込めるかどうかは、制度・運用・保守まで含めた設計力にかかっています。
特にサービス型市場では、単体車両の性能よりも、施設導線への組み込み、稼働率、保守体制、スタッフ教育まで含む総合提案が競争優位を左右します。
高齢者向けパーソナルモビリティ 関連リソース
内閣府「高齢社会白書」
高齢化率や高齢社会の政策背景を把握するための基礎資料です。市場の長期需要を読むうえで前提となります。
国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」
長期人口動態を確認できる公的資料で、高齢者向けモビリティ市場の需要基盤を検討する際に有用です。
厚生労働省「介護保険制度をめぐる状況について」
介護保険の現状や認定者数の動向を整理した資料で、福祉用具市場との接続を理解するのに役立ちます。
警察庁「電動車いすの安全利用について」
道路交通法上の位置付けや最高速度6km/hなど、安全利用の要件を確認できる資料です。
電動車いす安全普及協会「出荷台数の推移」
国内出荷台数と内訳を確認できる統計資料で、ハンドル形の市場優位を把握するのに有用です。
WHILL ニュース
施設内モビリティサービスの拡大や導入実績の文脈を確認でき、サービス型市場の広がりを把握する参考になります。
