ポストコンバッションCO₂回収(アミン吸収中心)の
市場調査レポート
発電所や産業設備の排ガスからCO₂を回収するポストコンバッションCO₂回収は、 既設設備へのレトロフィット適性が高く、CCS/CCUS市場の中でも導入が進みやすい領域です。 本ページでは、アミン吸収法を主軸に、市場規模、主要プレーヤー、技術成熟度、コスト構造、 政策環境、導入障壁、投資機会を整理します。
(2024年)
(Global Market Insights)
(商用サービス段階)
(同CAGR延長)
本ページでは、「発電・産業排ガスからの回収(ポストコンバッション)+CCS/CCUS関連サービス市場(売上)」 を対象とし、技術面は最も普及した回収技術の一つである化学吸収(アミン系溶剤)を中心に整理しています。 市場規模は公表されている市場レポート値を採用し、2021〜2023年は2024年値とCAGRから逆算した推計値として扱います。
既設設備への適用余地
ポストコンバッション回収は、既存のボイラ・焼却炉・化学プラント等の排ガスラインに後付けしやすい点が強みです。
新設前提の前燃焼・酸素燃焼に比べ、既存資産の脱炭素化手段として事業検討が進めやすい市場です。
アミン吸収が主流技術
技術供給の中核は、溶剤(アミン)+吸収再生プロセス設計+EPCです。
三菱重工業のKM CDR ProcessやFluorのEconamine FG Plusなど、商用実績あるプロセスが市場を牽引しています。
案件成立の鍵はT&S接続
回収設備だけでは事業は完結せず、圧縮・輸送・貯留のインフラが必要です。
このため、単独案件よりもCCUSクラスターや共用T&Sネットワークへの接続可否が投資判断を左右します。
コストは分圧と規模で変動
アミン吸収の回収コストは、CO₂分圧・排ガス量・蒸気源確保のしやすさに強く依存します。
低分圧・小規模案件では高コスト化しやすく、高分圧・大規模案件ほど経済性が改善します。
政策支援が収益性を左右
米国45Q、英国クラスター支援、日本のCCS事業法整備など、制度面が案件組成に直結しています。
単なる装置販売ではなく、制度適合型の事業スキームを組めるかが競争力になります。
Global Market Insights によると、世界のポストコンバッションCCS市場は2024年に55億USD、 2025–2034年CAGR 19.3%とされています。以下の2021〜2023年は同CAGRを用いた逆算推計、 2025〜2030年は同CAGR延長による参考推計です。
| 年 | 市場規模(USD) | 円換算目安 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 2021 | 32.4億USD | 約4,535億円 | 2024年値からの逆算推計 |
| 2022 | 38.6億USD | 約5,410億円 | 2024年値からの逆算推計 |
| 2023 | 46.1億USD | 約6,454億円 | 2024年値からの逆算推計 |
| 2024 | 55.0億USD | 約7,700億円 | 公表値 |
| 2025 | 65.6億USD | 約9,186億円 | CAGR延長推計 |
| 2026 | 78.3億USD | 約1.10兆円 | CAGR延長推計 |
| 2027 | 93.4億USD | 約1.31兆円 | CAGR延長推計 |
| 2028 | 111.4億USD | 約1.56兆円 | CAGR延長推計 |
| 2029 | 132.9億USD | 約1.86兆円 | CAGR延長推計 |
| 2030 | 158.6億USD | 約2.22兆円 | CAGR延長推計 |
技術供給側は、溶剤ライセンス、吸収再生プロセス、EPC、モジュール化装置の組み合わせで差別化する構図です。 装置単体よりも、プロセス保証・性能保証・施工一体での提案力が重要です。
三菱重工業(日本)
関西電力と共同でKS-1溶剤・KM CDR Processを開発。排ガスからの化学吸収を中核ソリューションとして展開し、2024年9月時点で商用採用プラント18件とされています。
Fluor(米国)
Econamine FG Plusを展開。ポストコンバッションCO₂回収の中でも商用実績のあるアミン吸収プロセスとして位置づけられています。
SLB Capturi(米国/ノルウェー)
モジュラー型回収設備を展開し、最大10万t/年級のユニットを訴求。中規模案件の立ち上げ短縮や標準化で存在感を強めています。
Aker Carbon Capture(ノルウェー)
Just Catchなどのモジュール型回収システムで案件展開。標準パッケージ化による工期短縮と導入容易性が特徴です。
日本の導入蓄積
日本CCS調査の資料では、アミン溶液による化学吸収法が工業的に確立され、化学工場・天然ガス生産工程・燃焼排ガスからの回収で活用されてきたと整理されています。
事業構造の特徴
競争は単なる装置販売ではなく、溶剤性能、再生エネルギー効率、腐食管理、EPC実行能力、O&M支援まで含めた総合提供力で決まります。
Global CCS Institute のTRL整理では、商用サービスがTRL9に相当します。アミン吸収法は多数の商用適用とEPC標準化の進展から、 TRL9相当の成熟技術とみなせます。
実案件では、単に回収装置を設置するのではなく、排ガス条件・熱統合・T&S接続・制度対応まで含めた全体設計が必要です。
排ガス評価
CO₂濃度、分圧、不純物、流量、運転変動を把握
熱統合設計
蒸気源や再生熱、電力負荷を最適化
輸送・貯留接続
圧縮、脱水、T&S契約、クラスター接続を確定
許認可・投資回収
制度適合、補助金・税制活用、長期契約を設計
CCS全体コストは、一般に回収(高純度化)が最大要素となり、そこに圧縮・脱水、輸送、貯留が続きます。 ただし比率は、CO₂分圧、設備規模、輸送距離、貯留サイト条件で大きく変動します。
回収
設備、アミン溶剤、再生熱、補機電力、腐食対策など。一般にCCS総コストの最大要素になりやすい領域です。
圧縮・脱水・前処理
輸送・圧入仕様に合わせるための高純度化工程。電力消費が継続的に発生します。
輸送
パイプライン、船舶、基地、荷役の設計次第で変動。クラスター接続により単独案件より効率化しやすい領域です。
貯留
井戸掘削、圧入、モニタリング、長期管理が中心。地質条件と規制対応がコストに直結します。
高分圧・大規模ソース
大規模ガス処理などでは、回収コストが20USD/t未満となるケースも整理されています。分圧が高く、前処理条件が有利な案件が中心です。
低分圧・小規模排ガス
CO₂分圧が1kPa付近のような希薄排ガスでは、回収コストが180USD/t超となり得ます。熱需要と設備規模の不利が大きく出ます。
T&S込み総コスト
輸送距離が長い、貯留条件が厳しい、インフラ共用ができないといった条件では、総コストが120USD/t超になるケースもあります。
ポストコンバッションCO₂回収の市場性は、技術の優劣だけでなく、回収後の輸送・貯留まで含めた制度整備で大きく左右されます。
- 日本:CCS事業法の整備 試掘・貯留許可、導管輸送の届出、保安規制、JOGMECへの管理移管条件など、CCSを事業として成立させる制度基盤が整理されています。
- 米国:45Q税額控除 ポイントソース回収にも適用され得る代表制度です。回収・利用・貯留の要件に応じて支援額が変わるため、案件組成時の前提条件になります。
- 英国:CCUSクラスター支援 2024年には、25年間で最大217億GBPのコミットが政府資料で示されており、クラスター形成を通じた投資促進が進められています。
- クラスター政策の重要性 回収単独ではなく、輸送・貯留まで含めた共用インフラを政策的に整えることで、案件ごとの初期負担を下げる方向が主要国で共通しています。
導入障壁とリスク
ポストコンバッションCO₂回収は成熟技術ですが、案件化には依然として複数の制約があります。
- 設備統合リスク:既設設備へのレトロフィットでは、停止期間、設置スペース、蒸気源の確保が課題になります。
- エネルギーコスト:アミン再生には熱と電力が必要で、燃料価格・電力価格がOPEXに直結します。
- インフラ制約:輸送・貯留が整わない地域では、回収設備だけでは案件が成立しません。
- 社会受容性・許認可:貯留サイトの許認可、環境影響評価、モニタリング義務、長期責任がタイムラインを左右します。
したがって、技術採用の意思決定は「回収装置の性能」だけでなく、クラスター接続性、制度適合性、長期契約の組成力を含めて評価する必要があります。
市場拡大の果実を取りやすいのは、単にアミン吸収塔を供給する企業ではなく、性能保証と事業実装を一体で提供できる事業者です。
EPC+溶剤/プロセスライセンス
技術供給者は、溶剤ライセンス、プロセス設計包、EPC、性能保証を組み合わせることで高付加価値化しやすい構造です。
モジュラー回収 “as-a-product”
Just Catchのように、標準化・モジュール化した回収設備をパッケージ販売し、工期短縮と案件複製性を高めるモデルです。
クラスター接続 “as-a-service”
回収設備単体でなく、T&S接続を含む長期契約を提供することで、需要家の投資回収確実性を高めるモデルです。
ポストコンバッションCO₂回収は、すべての排ガスに均等に向く市場ではありません。勝てる排ガス条件と制度接続を絞ることが重要です。
短期(〜2年)
CO₂分圧が高く、規模が大きい排ガスから優先着手。加えて、T&S接続可能なクラスター案件に集中し、初期案件の成功確率を高めます。
中期(〜5年)
回収設備の標準化・モジュール化によりCAPEXと工期を圧縮。日本ではCCS事業法に沿った許認可・料金・責任対応を事業体制に組み込みます。
長期(〜10年)
GX-ETSや差額補填型制度と連動した投資回収モデルを整備し、低炭素製品調達規制が強い市場向けに供給価値を高めます。
参考サイト・出典
Global Market Insights
ポストコンバッションCCS市場規模の公表ページ。2024年市場規模と2025–2034年CAGRの参照元です。
三菱重工業
KM CDR ProcessおよびCO₂回収技術の紹介ページ。KS-1溶剤と商用展開の把握に有用です。
Fluor
Econamine FG Plusの技術概要。商用実績のあるアミン吸収プロセスの参考情報です。
SLB Capturi
モジュラー型回収設備のニュースリリース。標準化・製品化の方向性を示す事例です。
Global CCS Institute
CCS技術のTRLとコスト感を整理した資料。アミン吸収の成熟度やコストレンジ整理の参考になります。
日本CCS調査株式会社
CCSの仕組みと化学吸収法の整理。日本国内におけるアミン吸収法の位置づけ確認に使えます。
経済産業省
CCS事業法の制度概要資料。試掘・貯留許可、導管輸送、管理移管の制度設計の参照元です。
