CCUS市場の
市場調査レポート
CCUS(CO2回収・利用・貯留)は、セメント・鉄鋼・化学・発電・低排出水素など、排出削減が難しい分野を支える重要技術です。グローバルでは案件数と捕集能力のパイプラインが拡大し、日本でも2030年までの初期案件立上げと、2050年に向けた本格展開の制度整備が進んでいます。
(2024年)
(2024年)
(2024年7月時点)
CCUS市場は、単なる回収装置市場ではなく、回収・輸送・貯留・利用・MRVまでを含むインフラ市場として見る必要があります。特に近年は、複数排出源を束ねるハブ&クラスター型が中心的な事業モデルになりつつあります。
CO2回収(Capture)
燃焼後回収、燃焼前回収、酸素燃焼、工業プロセス回収、DACなどが対象です。発電よりも、セメント、鉄鋼、化学、精製、水素製造などの排出削減困難分野で重要性が高まっています。
短中期の市場性は、単体設備の性能だけでなく、輸送・貯留先と一体で成立するかに左右されます。
輸送(Transport)
パイプライン、船舶、ローリー輸送が主要領域です。日本のように排出源と貯留適地が必ずしも一致しない地域では、船舶輸送や海外CCSも重要な選択肢になります。
輸送インフラは個別案件よりも、複数案件を束ねる共通基盤としての性格が強く、規模の経済が事業性を左右します。
貯留(Storage)
帯水層、枯渇油ガス田、EORなどが中心です。CCUS市場の最終的なボトルネックは、貯留サイトの評価、試掘、圧入許可、長期モニタリング体制にあります。
案件が増えても、貯留ポテンシャルの実証と許認可が遅れれば、稼働中能力は伸びにくい構造です。
CO2利用(Utilisation)
化学原料、合成燃料、炭酸塩化などの利用が含まれます。ただし、大規模な排出削減市場としては、利用より貯留が中核である点は整理が必要です。
利用市場は、製品プレミアムや政策支援が成立する用途で先行しやすい一方、恒久的削減としての評価軸は別途検討が必要です。
MRV・制度・長期責任
計測・報告・検証(MRV)、許認可、漏えい時対応、貯留後責任などが投資可能性の前提になります。CCUSは制度がないと市場が成立しにくい典型例です。
日本でも、事業法整備、国民理解、海外CCSの扱いなど、制度面の整備が2030年までの重要テーマになっています。
CCUS市場は売上高だけで捉えにくいため、実務上は案件数と捕集能力(Mtpa)で把握されることが多い領域です。足元では「稼働中能力」の伸びは小幅ですが、建設中・高度開発案件が大きく増えており、今後のFID獲得と建設進捗が市場拡大を左右します。
稼働中施設:41 → 50
世界の商用CCS施設は2023年の41施設から2024年は50施設へ増加しました。実績は積み上がっている一方、増加ペースはまだ限定的です。
建設中施設:26 → 44
建設中案件は大きく増加しており、短中期の実稼働能力の伸びを決めるセグメントです。案件の実現率を見るうえで最重要の層です。
高度開発:121 → 247
高度開発段階の案件増は、政策支援や制度整備が案件形成を後押ししていることを示します。ただし、FID未達案件の不確実性は残ります。
捕集能力:361 → 416Mtpa
世界の捕集能力パイプラインは2023年361Mtpaから2024年416Mtpaへ拡大しました。能力ベースでも成長トレンドは明確です。
IEA見通し:2030年 約430Mt/年
IEAは現行パイプラインに基づき、2030年までに約430Mt/年へ到達し得ると整理しています。潜在量は大きい一方、実現には政策・資金・許認可が不可欠です。
日本:2050年 1.2〜2.4億t/年
日本では、2050年時点で年1.2〜2.4億tのCO2貯留可能量を目安とする長期ロードマップが示されており、2030年までの初期案件形成が重要な先行ステップです。
CCUSは単体設備導入よりも、排出源・輸送・貯留・制度をつないだ全体設計が重要です。特にハブ&クラスター型では、以下の流れで事業性が組み立てられます。
CO2回収
発電、セメント、鉄鋼、水素などの排出源からCO2を回収
圧縮・脱水
輸送・貯留に適した状態へ前処理し、品質管理を行う
輸送
パイプラインや船舶で共通インフラに接続し、貯留地点へ移送
貯留・MRV
地中貯留とモニタリングを実施し、長期責任の枠組みで管理
CCUS市場の拡大は、技術の成熟だけでなく、政策支援・制度整備・需要家の長期契約に大きく依存します。注目すべき論点を整理すると以下の通りです。
ネットゼロ政策の補完技術としての位置付け
CCUSは、再エネ電化だけでは削減しにくい産業・既存資産に対する補完策として扱われています。特に産業脱炭素と低排出水素で需要が強い領域です。
ハブ&クラスター型の主流化
排出源ごとの個別最適ではなく、輸送・貯留を共通インフラ化するモデルが主流です。共通化により、コスト低減と案件集積が同時に進みます。
FIDを後押しする財政支援の重要性
税控除、補助金、CfDなどの支援が整った地域ほど案件が前進しやすく、パイプラインの実現率を押し上げます。市場拡大は制度の厚みに強く依存します。
稼働中能力が伸びにくい構造
案件数が増えても、試掘、許認可、資金調達、地域受容のどこかで遅れると実稼働に結び付きません。CCUS市場ではリードタイムの長さ自体がリスクです。
2030年初期案件が標準モデルになる
日本では、2030年までの年間600〜1,200万tの初期案件群が、以後の大規模展開の基準ケースになる見込みです。初期案件の進捗が市場評価の起点になります。
注視すべき先行指標
試掘進捗、貯留評価、FID取得、T&S契約、許認可、MRV枠組みの確定が重要です。単なる発表件数より、各案件の実行段階を追う必要があります。
CCUS市場では、データベース整備を担う機関、制度設計を支える政府・公的機関、輸送・貯留インフラをつくる事業者、回収設備を供給するEPC・産業企業が重なり合って市場を形成しています。
- Global CCS Institute 商用CCSデータベース(CO₂RE)や年次報告を通じて、施設数・捕集能力・政策動向を継続的に整理する、業界データの代表的な参照先です。
- IEA(国際エネルギー機関) CCUS Projects Databaseの更新に基づき、稼働中能力や2030年の到達可能性を示しています。市場の実現可能性をみる上で重要な一次情報です。
- JOGMEC 日本の先進的CCS支援を担う中核機関です。重点支援候補案件の形成を通じて、日本国内の初期市場立上げを後押ししています。
- Shell / Equinor / TotalEnergies 北海域の貯留インフラ拡張など、輸送・貯留側の大型投資を担う代表例です。T&Sインフラ主導の市場形成を示す象徴的なプレーヤー群です。
- Air Products / Air Liquide / ExxonMobil など 低排出水素、アンモニア、大型産業案件とCCSを統合するプロジェクトで存在感を持つ企業群です。回収設備と事業統合の視点で注目されます。
CCUS市場の課題と今後の見通し
最大の課題は、案件パイプラインの拡大に対して、稼働中能力の増加がまだ緩やかであることです。FID、建設、操業までのリードタイムが長く、制度・資金・地域受容のどこかで停滞すると、市場実績に反映されにくい構造があります。
一方で、2030年に向けた能力拡大の潜在量は大きく、輸送・貯留の共通化、長期契約、MRVと責任枠組みの先行整備が進むほど実現率は高まります。日本市場でも、2030年までの初期案件群を標準モデルとして成立させられるかが最重要の論点です。
投資判断では、案件数の多さだけでなく、試掘・貯留評価・FID・許認可の進み具合を優先的に追うことが有効です。
CCUS市場 関連リソース
Global CCS Institute ─ Global Status of CCS 2024
世界のCCS施設数、捕集能力、政策動向を整理した代表的な年次レポートです。市場全体を俯瞰する際の基礎資料として使えます。
IEA ─ CCUS projects around the world are reaching new milestones
CCUSプロジェクトデータベースの更新に基づき、稼働中能力や2030年の到達可能性を整理した解説です。
経済産業省 ─ CCS長期ロードマップ
日本のCCS導入方針、2030年までの初期案件、2050年に向けた貯留規模の目安が示された政策資料です。
NEDO ─ CCSに関する資料
CCSの背景、技術、制度、国内外の動向を把握するための基礎資料として参照しやすい内容です。
JOGMEC ─ 先進的CCS支援
日本の重点支援候補案件や支援スキームの概要を確認できます。国内案件の進捗を見るうえで有用です。
Reuters ─ Northern Lights carbon storage expansion
北海域の炭素貯留インフラ拡張に関する報道で、輸送・貯留インフラ投資が進む市場実例として参考になります。
