半導体ベンダーNo.1に返り咲いたIntelの死角はどこにある?
1. 序
2月3日に公開した記事「2019年、Intelが半導体市場トップを奪還。そして、次はどうなる?」にて、半導体業界の動向とIntelの今後について考察を提供しました。この記事ではIntelの将来性について比較的に楽観的でしたが、実際はどうなのでしょうか?
今回は、Intelの死角はどこにあるか、という観点から考えてみます。
2. Intelのビジネス状況分析
CPU市場 (Micro)は、下図に示すように半導体全体で15%程度の比重を占めています。そして、IntelはこのCPU市場で大きなシェアを占める事で、トップベンダのポジションを獲得してきました。
出典:WSTS
図2-1-半導体市場構造推移
さて、ここで翻って、Intelのビジネス構造を見てみます。下図に2020年第一四半期の売上げ構成を示しますが、Intelのビジネスを売上額から眺めると、CPU>Memory (SSD)>IoT>FPGA>MobilEyeとなっています。
出典:Intel社 2020年第一四半期業績
図2-2- Intelの事業構造 (2019年第一四半期vs 2020年第一四半期)
ここからは、各事業の状況を分析していきます。
Intelにとって、PC向けCPUビジネス (Client Computing Group)が全体売上げの49%を、サーバ向けCPUビジネス (Data Center Group)で35%を占めています。結果的には、Intelは売上げの84%をCPUビジネスに依存していることになります。
まさに、CPUビジネスがIntelを支え、半導体市場でNo.3と大きな比率を占めるCPU市場で圧倒的なシェアを持つがゆえに、Intelはトップペンダでいられるということであります。
SSDビジネス (Non-Volatile Memory Solution Group)は、Intelにとっては7%程度の比重、金額で$1.4B (2020年第一四半期)を持つビジネスです。
一方、市場としてみると、SSDは57.9B (6兆円弱)の規模 (2019年第二四半期実績)を持っています (Informa社調査)。以下に台数ベースでのSSD市場のプレイヤ構造を示しますが、Samsung, Western Digital, Kioxia/Lite-ONを筆頭に多くの企業が存在し、Intelも10%弱のシェアを獲得しています。
SSD市場はHDD市場を飲み込みつつ、確実に拡大していくでしょうし、Intelにとって、SSDはますます重要なビジネスになると予想されます。
出典:Informa
図2-3- SSD市場ベンダーシェア推移
IoTビジネスは、図2-2では明示されていませんが、売上げを見ても、2020年第一四半期は$883Mとなっており、前年同期の$910Mから減少している状況です。2019年4月に「Intel・Microsoft・ARM等のIoTへの取組み」でもIntelのIoTビジネスへの考察を行いましたが、まだまだ迷走状態から脱却していないようです。
2015年、Intelは167億ドル (2兆円弱)で、Altera社を買収し、FPGA技術を入手しました。
Gartner社によると、IntelはFPGA市場において$2033Mの売上げと35.8%のシェアを得ています。但し、2020年第一四半期の売上げは$512Mとなっていますので、この2年間、売上げ拡大のペースは低水準にあります。
図2-4- FPGA市場におけるIntelのポジション
買収当時は、下図に示す構想を掲げていましたが、現実は、構想通りになっていないようです。FPGAビジネスをどのようにして拡大していくかは、Intelにとってはまだまだ課題になっているようです。
出典:Intel
図2-5- Altera買収の目的 – Data Centerアクセラレーション
出典:Intel
図2-6- Altera買収の目的 – IoTへの活用
2017年、IntelはMobile Eyeを153億ドル (約1.8兆円)で買収することでADAS/自動運転技術市場に参入しました。ただし、その売上げは$1B程度 (1%程度)です。将来性は期待できるが、Intelの屋台骨になることは、あるとしも、まだまだ先のことと思われます。
図2-7- 車載半導体市場ランキング
このように見てくると、Intelの今後は、やはり、CPU市場と変化とその市場におけるIntelのシェアが握っているように思われます。
3. IntelとCPUビジネス
90年代、プロセッサといえばCPUであり、PC/サーバを意味していました。しかし、今やプロセッサといえば、PC/サーバだけでなく、スマートフォン/タブレット、ゲーム機、デジタルガジェット等々があります。その用途も、ウェアラブルデバイス、IoTデバイス、スマート家電、スマートファクトリー、自動運転等車等々、まだまだ拡大しています。
年間出荷数で見ても、PC/サーバが~3億台/年であるのに対して、スマートフォン等は10億台~/年と、桁違いの規模を持っています。90年代とは様変わりしています。
この状況を図にすると下図のようになります。
出典:筆者作成
図3-1- X86アーキテクチャ~ARMアーキテクチャ 利用状況 (これまで)
これまで議論してきたように、Intelは、PC/Server/HPCという領域では圧倒的にはポジションを得ていました (データセンタサーバー向けCPUで98%:IDC調査:17年1~9月)。しかしながら、スマートフォンタブレット機器市場はApple/Qualcomm/Media Tech等のSoCが市場を確保しており、これらはARMアーキテクチャを利用しています。又、ゲーム・ウェアラブルデバイス・IoTデバイスのプロセッサもARMアーキテクチャを利用しています。
GPU市場を見ると、PC向けではNVIDIAとAMDの寡占になっていますが、NVIDIAのGPUはやはり、ARMアーキクチャを利用しています。
利益率は低いといえ、数量的には圧倒的な比重を持つこれらのセグメントではIntelのポジションは無きに等しく、スマートフォン/IoT向けでは失敗を繰り返しており、参入しようにも、攻めあぐねている状況です。
今後に目を転じると、2021年、AppleがARM CPUを利用したMAC Bookの発売を、MicrosoftもARM CPUを利用したSurfaceの発売を予定しています。
又、NVIDIAはHPC向けGPUをARMアーキテクチャでリリースしており、直近では理化研の富岳の開発にあたり富士通がARMアーキクチャを採用するなど、ARMアーキテクチャはHPCの領域からも浸透しつつあります。この状況を図にすると、以下のようになります。
出典:筆者作成
図3-2- X86アーキテクチャ~ARMアーキテクチャ 利用状況 (これから)
Intelは、スマートフォン・ウェアラブルデバイス・IoTデバイス等で生まれた新市場でポジションを取る事には失敗し、かつ、PC/Server/HPC等のIntelにとっての金城湯池にARMアーキテクチャに攻め込まれています。
更に悪い事に、10nm/7nmデザインルールの導入に手間取り、CPUの性能向上・供給力で問題を起こし、下図に示すようにAMDの拡大を許しています。
出典:マーキュリーリサーチ
図3-3- AMD社 2019年第四四半期シェア (前期、前年同期比)
又、2021年からは、RISC-VアーキテクチャのCPUの利用も本格化すると予想されています。
このように考えると、Intelの今後も、なかなか険しいものがありそうです。
なお、RISC-Vの浸透はARMアーキクチャにとってもネガティブインパクトがあるはずです。この事は、別の機会に考察をしたいと考えます。
4. まとめ
IntelがPC市場で圧倒的なポジションを得た要因の一つは、自分はプロセッサチップ提供者に徹し、かつそのチップを、それを望むすべてのPCベンダーに提供したことです。それにより、メインフレームの外側にPCエコシステムをMicrosoftと創造し、ビジネスを謳歌してきました。
ARMは、プロセッサIPコア提供者に徹し、かつそのIPコアを、それを望むすべてのデバイスベンダーに提供しています。それによりPCの外側にスマートフォン・IoTデバイス等のエコシステムをApple/Qualcomm/NIVDIAと創造し、謳歌しつつあります。
歴史は繰り返すというが、面白いものです。
さて、このような状況において、Intelはどのような起死回生策を打ち出すのであろうか?
一つの予想であるが、Intelは、単価数ドルのCPUを数億個売るIoTビジネスの進出に注力するのではなく、PC/Server市場の死守とともに、自動車向け半導体市場のテコ入れに走るのではないだろうか?
今後、非ノイマン型コンピュータ、例えば、ニューラルネットワーク、量子コンピュータ等の普及が始まります。特にニューラルネットワークは深層学習とも結びついて人工知能として、量子コンピュータはビッグデータ解析等で期待されています
大胆な予想であるが、Intelは、こういった新世代コンピュータ向けの電子部品ベンダーとなる事を目指すのではないだろうか?
Intelがどのような方向を打ち出すのか、注目をしていきたい。
筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)
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