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Disneyが動画配信サービス市場に参入。なぜ、今?

Disneyが動画配信サービス市場に参入。なぜ、今?

 

1. 序

2019年11月12日、米娯楽大手のウォルト・ディズニーが、サブスクリプション型動画配信サービス「Disney+」を開始しました。 利用者からのアクセスが殺到しシステム障害が発生し、利用者からの苦情が相次ぐというアクシデントもあったが、幸先のよいスタートを切りました。

ウォルト・ディズニーがこの時期に新たな動画配信サービスを始めたのは何故であろうか?

多くの人にとって、単語的には馴染みはあっても体系的には分かってこの業界を、よりよく知っていただくために、いつものお二人に登場を願いしました。

– A氏:某企業_事業戦略部門担当者

– B氏:某調査会社のアナリスト

 

では、よろしくお願いいたします。

 

2.対談

A氏:11月12日、Disneyが動画配信サービス「Disney+」を始めました。Disneyと言えば、以下に示すように映像ビジネスにおける巨人です。なぜ、今、新しい配信チャンネルを作ったのでしょうか?

コンテンツ:

–        ミッキーマウスに代表される古くからの自社製作コンテンツがあり、更には20世紀フォックス買収で得た膨大がTV・映画作品がある。

–        製作スタジオ
最近では「アナと雪の女王」を送りだしたWalt Disney Animation Studiosを持つ。更には、「Star Wars」のLucasfilm、「Toy Story」のPixar Animation Studios、「Avengers」のMarvels Studio等々を買収し、製作会社と著作権を所有。

配信網

–        地上波放送ではABC (伝統的な3大放送局の一つ)とFox Network所有

–        ケーブル網/衛星網経由でスポーツを中継/配信するESPNを所有

–        インターネット経由で動画配信を行うHuluを所有

 

B氏:そうです。ところで、まず、消費者が動画コンテンツをどのように閲覧しているかを見直してみましょうか。

伝統的な閲覧方法は、映画館・地上波テレビ放送・ケーブル放送・衛星放送・ビデオレンタルになります。時にはコンテンツをVTRに録画して、後日閲覧というパターンもあります。

ただ、ここ10年ほどでインターネットと組み合わせる事で新しい閲覧が可能になりました。

  1. ブラウザを使った動画閲覧 (例えば、YouTube動画をChrome等のブラウザで見る。ディスプレイはPC用、TV受像機を使用)
  2. 動画配信業者が提供するセットトップボックスを使った動画閲覧 (例えば、RokuのセットトップボックスをTV受像機に装着して、NETFLIXを閲覧)
  3. ゲーム端末を使った動画閲覧 (例えば、Play Station Networkの動画を、PS4をセットトップボックスとして使ってTV受像機で閲覧)
  4. スマフォアプリを使った動画閲覧 (例えば、iPhoneにダウンロードしたiPhoneアプリでNetflixの動画を閲覧)
  5. 地上波TV番組をHDDレコーダに録画し、スマフォで閲覧 (例えば、HDDレコーダに録画したRWC日本vs南アフリカ戦をインターネット経由で閲覧)

 

参考までに、米国における端末の稼働数を示します。これによると、Roku端末の稼働数は2018/3QにSony PS・Microsoft X-Boxを抜いてトップに躍り出、PS2018/Q4には4000万台が稼働しており、2019年末には5000万台超になると予想されています。

米国の世帯数は1.3億世帯と見積もられていますので、rokuの普及率は40%になります。

 

出典:ビジネスインサイダー

図2-1- 動画配信サービス用端末稼働数

 

 

A氏:そう言われてみると、今は動画閲覧も随分と色々な方法がありますね。

日本でも、電車の中でも相変わらず多くの人がスマフォを見ていますが、最近は、動画を見ている人も多いと思います。では、今回の「Disney+」は、これらの動画閲覧ではどれに相当するのですか?

 

B氏:Disney+を視聴できるデバイスは以下になります。

–          Amazon.com:           Fire TV

–          Apple:                      iPhone・iPad・iPod touch・Apple TV。

–          Google:                    Androidスマートフォン・Android TV・Google Chromecast・Chromecast内蔵端末

–          Microsoft:                Windows10・Xbox One

–          Sony:                        PlayStation 4・AndroidベースのSony TV全種

–          Roku:                       Roku TVおよびRokuストリーミング端末

 

消費者は「Disney+」を契約すると、これら端末にてDisneyの動画を閲覧できます。

 

ただ、消費者は、別の動画配信業者経由でも、「Disney+」のコンテンツを閲覧することもできます。例えば、roku契約者がDisney+を閲覧する場合を考えます。

この時、roku契約者は以下画面から見たい番組を保有しているコンテンツ事業者を選択し、次に、そのコンテンツメニュー画面から見たいコンテンツを選択します。

Rokuが「Disney+」のコンテンツを配信する時、Disney+のロゴがこの画面に並ぶことになるのでしょう。

出典:roku ウェブサイト

図2-2- roku画面

 

 

出典:筆者作成

図2-3- Rokuにおけるコンテンツ配信網

 

A氏:なるほど。でも、これまででもDisneyが製作した「アナと雪の女王」は、rokuやAmazon Prime Video等でも見る事ができました。

今後、Disneyが「Disney+」が始めた以上、消費者は「アナと雪の女王」をrokuやAmazon Prime Videoでは見られなくなるということですか? それは困りますね。

 

B氏::いえ、幸いにして、そういう事にはなりません。

この状況をDisneyの立場からすると、

–          これまでは「アナと雪の女王」等のコンテンツを配信業者にバラ売りにしていました。

–          配信事業者を通じてのコンテンツ単位での消費者への提供は今後も続けます。

–          今後はDisneyのコンテンツを「Disney+」というチャンネルを経由して、消費者に直接、提供します。

–          又、「Disney+」チャンネルをコンテンツ配信事業者への提供も、新たに始めます。

ということです。

これを消費者の立場からすると、「アナと雪の女王」は、Rokuで見る事もできるし、Amazon Prime Videで見る事もできるし、「Disney+」でも見ることができるということになります。

この構造を図にすると、下図のようになります。

 

出典:筆者作成

図2-4- 消費者にとってのDisneyコンテンツの閲覧方法

 

A氏: なんだか、分かったような分からないような・・・・・

消費者からすると、

  1. 見たい映画はたくさんあって、たまたまそこに「アナと雪の女王」があったというだけならば、Amazon Primeでサブスクリプション契約を結んで、更に300円程度の閲覧費を払って「アナと雪の女王」を閲覧すればよい
  2. 「いやいや、自分には、見たい映画がたくさんあるし、Disneyにも見たい映画がたくさんある」というならば、Amazon Primeのサブスクリプションを結びつつ、更に「Disney+」とサブスクリプションを結べばよい。
  3. 「いや、自分はDisneyの映画が見られれば、それで十分」というならば、Amazon Primeのサブスクリプション契約を解除して、「Disney+」と直接、サブスクリプション契約を結べばよい。

ということになりますか。

 

B氏::そういう事ですね。ただ、Disneyとしても、コンテンツ販売は有力なビジネスですから、他の配信事業者経由でのコンテンツ販売は続けていくでしょう。

但し、「Disney+」でのみ視聴できるコンテンツを製作して、消費者との直接契約を増やすことは始めるでしょう。

Amazonにしても、Netflixにしても、当初は既存映画コンテンツ等の配信をしていましたが、自社製作で自社サイトでのみ閲覧できるコンテンツを充実させていますし。

しかも、エミー賞やグラミー賞を取るような高い品質のコンテンツを製作できるだけの水準に達していますし。

Disneyも「コンテンツ売上げが入ってくるから良いか」という考えでいると、いずれ、痛い目を見る事になるでしょう。

 

A氏:それが、Disneyが「Disney+」を新たに立ち上げた理由ですか?

 

B氏:Disneyが

–          AmazonやNetflixが有力な販売代理店であることは事実だが、実は手ごわい競合相手であるということ

–          PCやスマフォでの動画閲覧が地上波TVやケーブルTVの視聴を大きく侵食している事

–          広告付き映画無料配信をYouTubeが開始し(Free To Watch)、スポンサー企業・消費者の両方をごっそりと奪っていく

ということを認識し始めた事が、DisneyがHuluに加えて「Disney+」を新たに立ち上げた理由でしょう。

広告付き映画無料配信は、地上波TV放送やケーブルTVと同じビジネスモデルであり、サービスですから、Disney/ABCとしても、地上波TV放送・ケーブル放送というビジネスの将来性に大きな危機感を持っているのではないでしょうか。

 

又、地上波TV放送やケーブル放送は、設備の関係上、提供地域は北米大陸になります。

一方、インターネットを配信インフラとすると、提供地域は世界全体になります。Netflixは世界190か国以上で動画配信を展開し、2018年には1.2兆円の売上げを達成しました。

Disneyは、映画配信・テレビ放送で、2019年9月期には約7兆円の売上げを達成しました (ホテル/リゾート込み)。 次の売上げ拡大の余地として、世界全体での動画配信に着目をすることが、「disney+」開始のもう一つの要因と推測できます。

 

A氏:なるほど。面白いですね。

これから、「Disney+」はどうなっていくのでしょうか。

 

B氏:より俯瞰的に見てみます。

Amazonと小売業界がしばしば取り上げられますが、インターネットという新技術を携えたNew Playerの参入により、出版・音楽配信・広告等々の多くの業界で、サプライチェーンがガラリと変わり、プレイヤの顔ぶれが大きく変わりつつあります。Traditional Playerの脱皮・反撃も、当然ありますが。

今回のDisneyの「Disney+」も、そういったTraditional Playerの反撃と見る事ができるでしょう。この場合、New PlayerはAmazon・Netflix・YouTube等々であり、Traditional Playerは、例えば、Disney/Warner/CBS等のコンテンツホルダー、ABC/NBC/CBS等の地上波TV放送、Comcast/TWC/Charter等のケーブル会社、AMC Theatres/Regal Entertainment Group/National Amusements等の映画館チェーンです。これらのTraditional Playerが、今後、どのように巻き返しを図るのか、興味深いところがあります。

この部分も今回の対談の趣旨から外れるので、別の機会にしましょう。お楽しみに。

 

A氏:Disneyが「Disney+」をテコにして、これから何をしていくのか? Traditional Playerがこれからどうなっていくのか? なかなか、面白そうですね。

ところで、日本はどうなるのでしょうか?

 

B氏: 現在、動画配信サービスにおいては日本企業のプレゼンスは、ほぼ無きに等しいです、残念ながら。

しかし、日本には、TV番組・映画・マンガ、実写コンテンツ・アニメコンテンツにおいて、シナリオ作り・動画作り等で、世界から認められているスタジオが多数あるし、認められ人気を博しているコンテンツの蓄積もあります。

Netflixは日本の原作力・製作技術に注目し、2018年12月に、「ウルトラマン」、「聖闘士聖也」、「7SEEDS」、「リラックマ」、「新世紀エヴァンゲリオン」の5本を2019年に世界同時公開することを発表しています。

 

これはこれで好ましい事ですが、やはり、これらのコンテンツを世界に発信することができる日本人のマネージャー・プロデユーサが登場して欲しいものです。

世界全体をカバーする動画配信技術は既に確立しています。これらの技術を使いこなし、事業化ができるマネージャー・プロデューサが待たれるところです。

データリソース社としても、こういったマネージャー・プロデューサを、調査会社ネットワークで応援していきたいと考えています。

情報を必要としている方・企業からのご相談をお待ちしております。

 

筆者:株式会社データリソース客員研究員 鈴木浩之 (ICTラボラトリー代表)

 

 

データリソース社が推奨する市場調査レポート

 

–          オーバーザトップ(OTT)動画の解約、保持、ライフタイムバリュー

  • 調査会社:パークスアソシエイツ社             発行時期:2019年11月

–          【調査レポートセット】5Gソリューションとビジネスチャンス:技術、インフラストラクチャ、機能、主要用途、サービス 2019-2024年

  • 調査会社:マインドコマース          発行時期:2019年10月

–          【PT:アプリケーションレポート】vMVPDの市場動向とビジネスチャンス

  • 調査会社:ABIリサーチ   発行時期:2019年10月

–          スポーツ、映画、ドラマシリーズ:オーバーザトップ(OTT)への投資の時代 - バリューチェーンに参入する新たなOTT企業の影響

  • 調査会社:イダテ社          発行時期:2019年9月

–          クラウドCDN市場:成長性、動向、予測 2019-2024年

  • 調査会社:モードーインテリジェンス          発行元:2019年8月

 

 

ウォルト・ディズニー社歴史

時期 出来事
1923年 ディズニー兄弟がディズニー・ブラザース・カートゥーン・スタジオを開始
1955年 カリフォルニア州アナハイム市に「ディズニーランド」を開園
1995年 ABC(米国地上波三大ネットワークの一つ)買収を発表。Disneyが世界最大のメディアに。
2006年 Pixar Animation Studios買収 (映像制作会社。Toy Story等を制作)
2007年 Huluが設立。Disneyは30%を出資
2009年 Marvel Entertainment買収 (漫画出版会社。Avengers等の著作保有)
2012年 Lucasfilm買収 (映像制作会社。Star Wars等制作)
2917年 21st Century Foxのテレビ・映画部門買収を発表 (買収完了は2019年3月)
2019年 Hulu経営権を取得。Comcast所有株式(33%)は2024年1月以降に買い取る

 

 

オンライン動画配信サービスを巡る歴史

時期 出来事
1997年 R. ヘイスティングス氏、M. ランドルフ氏、Netflixを設立
1998年 Netflix、オンラインでのDVDレンタルサービスを開始。 

キオスク型DVDレンタル事業を展開するレッドボックス社が2012年にトップになるまで業界1位を維持した。

2001年 Apple、iPod/iTunesを発表 (当初は音楽管理ソフト)
2003年 Apple、iTunes Music Store(音楽ダウンロードサイト)を発表
2005年 C.ハーリー氏、S.チェン氏、J.カリム氏、カリフォルニア州サンマテオでYouTube社を設立
YouTube社が公式サービスを開始。当時の動画再生回数は約800万回。
2006年 Amazon、米国にて動画配信サービス (Amazon Prime Video 当時はAmazon Unbx) を開始
Apple、動画配信サービスを開始 (iTunes Movies Store)
Apple、Apple TV (iTune対応セットトップボックス)を発表 

出荷開始は2007年3月。

2006年 GoogleがYouTube買収を発表
2007年 Netflixが、ストリーミング配信サービスを開始
2008年 Apple、映画のレンタルサービス「iTunes Movie Rental」を開始
2010年3月 YouTube、特定コンテンツの無料ストリーム配信を開始。(インディアン・プレミアリーグのクリケットのゲーム60試合を含む)
2011年5月 コムスコア社(市場調査会社)、「YouTube動画は140億回以上再生され、その市場占有率は約43%であり、アメリカにおけるオンライン動画の支配的な供給元」とする調査結果を発表
2011年12月 YouTubeが日本で映画のレンタル配信を開始
2012年10月 Netflix、エミー賞よりプライムタイム・エミー・エンジニアリング賞を受賞。理由は、ストリーミング配信を世に広めた功績が讃えられた。
2013年1月 Netflixが独自制作コンテンツの配信開始。最初は、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』。製作費で1億ドルを投じた事でも話題になる。
2013年4月 Amazon、Amazon Studios制作のコンテンツの配信開始 

(Amazon Studiosの設立は2010年後期)

2014年2月 Amazon、Fire TVを発売 (インターネット対応セットトップボックス)
2014年4月 Amazon、HBOと提携しAmazon Primeでコンテンツ配信へ。
2014年10月 Netflix、映像コンテンツ製作会社としての地位を確立。 

『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で3つのプライムタイム・エミー賞を、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 塀の中の彼女たち』で7つのクリエイティブアート・エミー賞を受賞。

2014年10月 CBS、「CBS ALL ACCESS」を開始
2015年1月 Amazon Studios、『トランスペアレント』でゴールデングローブ賞テレビドラマ部門作品賞を受賞。ストリーミングメディアサービスによって制作された作品で初の受賞。
2015年2月 Netflix、第87回アカデミー賞においてL.ディカプリオが製作総指揮を務めたドキュメンタリー作品『ヴィルンガ』が長編ドキュメンタリー賞にノミネート
2016年1月 Netflix、CESにて新たに130ヵ国を追加し世界190ヵ国で映像配信サービスを提供する事を宣言
2016年5月 Amazon、米日英独にて”Amazon Video Direct”を開始。
2017年2月 Amazon、第89回アカデミーで脚本賞と主演男優賞を獲得。初の受賞。作品は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
Netflix、第89回アカデミーで短編ドキュメンタリー賞を獲得。初の受賞。作品は「ホワイト・ヘルメット シリアの民間防衛隊」
2017年7月 Netflix、会員が1億人を突破した事を発表
2017年8月 CBS、「CBS ALL ACCESS」の海外展開を開始
2018年5月 カンヌ映画祭、Netflix作品を審査対象から除外
2018年11月 YouTube、米国で「Free To Watch」サービス (広告付き映画無料配信)を開始
2019年2月 Netflix、アカデミー賞で監督賞・外国語映画賞・撮影賞の3冠を獲得 

受賞作品は『ROMA/ローマ』

2019年3月 S.スピルバーグ監督、次回アカデミー賞ではストリーミング向け作品 (映画館で上映されない作品)をノミネート対象から外すよう主張。
2019年5月 Apple、「Apple TVアプリケーション」をiOS12.3で提供開始 

(発表は2019年3月のスペシャルイベント)

2019年7月 Warner Media、ストリーミングサービス「HBO Max」を発表。サービス開始は2020年春を予定
2019年8月 ViacomとCBSが統合を発表
2019年11月 Apple、「Apple TV+」を100以上の国・地域で提供開始。(定額制ビデオストリーミングサービス)(発表は2019年3月のスペシャルイベント)

 

 

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