世界各国のリアルタイムなデータ・インテリジェンスで皆様をお手伝い

詳細検索

お問合せ

03-3582-2531

電話お問合せもお気軽に

 

セルラー技術、ITSを飲み込み次の段階へ

セルラー技術、ITSを飲み込み次の段階へ

 

1. 序

2017年9月、Qualcommが、Qualcomm9150チップセットとC-V2X 参照デザインを発表した。これは、3GPP Release14仕様PC5に基づくCellular Vehicle-to-Everything(C-V2X)Cellular V2Xチップセットとなる。商用サンプル提供は2018年後半との事だが、ここに至るまでの経過をレビューしつつ、更にその次に来るインパクトを洞察する。

出典: Qualcomm

図1-1- C-V2X 参照デザインとチップセット

 

尚、本ドキュメントでは、”携帯電話”の代わりに”セルラー”を用語として使う。”電話”という単語を使わない事とする。

 

2. ITS技術/サービスとセルラーサービスの融合

日本ではVICS/ETCとして既に実用化されているITS (ITS Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)において、自動車は常に周囲環境と通信をしている。

通信相手が自動車の場合はVehicle-to-Vehicle (V2V)、信号機・標識等との通信はVehicle-to-Infrastructure (V2I)、スマートフォンを持った歩行者との通信はVehicle-to-Pedestrian、 ネットワークとの通信はVehicle-to-Network (V2N)となる。

これまでV2X通信プロトコルとしてIEEE802.11PをベースとしたDSRCを使う事で、自動車業界と各国行政機関は技術・サービスの開発を進めてきた。(図2-1参照)

出典:ITS Japan

図2-1- ITSイメージ

 

これに対して、セルラー業界はIEEE802.11Pの代わりにセルラーサービスの導入を提案した。これがCellular Vehicle-to-Everything(C-V2X)となる。(図2-2参照)

出典:Qualcomm

図2-2- C-V2Xプロトコルスタック (下位レイヤがセルラー、上位レイヤはDSRC)

 

実は、2015年3月、3GPP LTE Release12にてコアネットワークを介さないDirect CommunicationがD2D (Device to Device)通信として標準化されている。(図2-3参照)(この背景には米国政府による公共安全無線システム/Public SafetyへのLTE導入があるが、この事は後で触れる)

出典:ドコモ Technology Report

図2-3: セルラーサービスにおけるDirect Communication

 

インフォテイメントの分野ではセルラーサービスの利用は既に始まっているが (V2N)、今度は、V2V・V2I・V2P通信へのD2D通信技術の採用を携帯通信業界は提案しているのである (図2-4参照)。

出典:5GAA

図2-4: V2Xサービスイメージ

 

昨年 (2016年) 9月、ドイツの自動車メーカとQualcomm/Ercisson等の世界通信機器メーカによる「5G Automotive Association(5GAA)」結成が注目を集めたが、これも、LTEベースのV2V (図2-5参照) の標準化完了を3GPPが発表した翌日であることを考えると、興味深い。

出典:Ericsson

図2-5- LTEベースV2Xのシナリオ

 

現在、5GAAには世界の主要通信事業者を含め以下の企業が参加している (図2-6参照)。日本からはNTT・KDDI・ソフトバンク等の通信事業者はメンバーになっているが、自動車産業からの参加はデンソー・パナソニックだけであることは注意する必要がある。

出典:5GAA

図2-6- 5GAAメンバー一覧

 

3. Mobile Edge ComputingとITSの融合

セルラーサービスの自動車への導入に当たっては、特に交通安全の確保という点において低遅延は必須となる。(図3-1参照)

出典: Nokia

図3-1- 許容される遅延とアプリケーションの関係

 

下図 (図3-2) に示すように5G携帯網は遅延を1msec以内に抑えることができるが、端末(自動車)とサーバ間の往復通信でデータ処理時間も含めると、遅延は大きくなる。

出典:ITU

図3-2- 5G携帯パラメータ

 

実は、遅延抑圧という事では、2014年にETSIがMobile Edge Computingを提案し、その標準化を開始しているのである。(図3-3)

出典:ETSI

図3-3- Mobile Edge Computingアーキクチャ

 

ETSIの標準化は自動車に重点を置いたものではないが、もし、自動車を中心にシステム図を描くとするならば、下図のようになるであろう。(図3-4参照)

出典:Nokia

図3-4- Mobile Edge ComputingとITSの融合

 

そして、このシステムの基盤作りを行おうとしているのが、トヨタやNTTが発表したAutomotive Edge Computing Consortium(オートモーティブ・エッジ・コンピューティング・コンソーシアム)と思われる。

 

4. Qualcommの立ち位置

AI搭載による自動運転車の開発が盛んであるが、一方では、V2V通信にセルラーサービスを導入してのITS開発も始まりつつある。今後、自動車の安全確保は、AIによる自律運転の強化と環境情報の収集の二つの側面から進んでいくのであろう。

Qualcommはセルラー業界で蓄積してきた資産と、目下買収プロセスにあるNXPセミコンダクタの自動車業界での資産を統合することで、今度は、自動車業界で強力なポジションを築こうとしているのであろう。

今後のQualcommの動きに、そして、その対抗馬となるARM、Intel、NVIDIAの動きに注目である。

 

5. セルラーサービス・技術の今後の展開

5.1 セルラーネットワークは、自営網も飲み込む

第二章でも触れたが、D2D通信技術がセルラーサービスに織り込まれた理由は、米国政府によるコストダウン・互換性確保を目的としたPublic Safetyでのセルラーサービスの活用であった。

今後、米国では様々な部署が程度・時間に差はあれどセルラーサービス・技術の自営網への導入を進めるであろう。

そして、世界各国でも防災・警察・船舶等、様々な団体が自営網を構築している。この米国の動きは、自営網が未発達な発展途上国においても、日本・欧州の先進国でも進むであろう。 セルラーサービス・技術は、今後、更に広く浸透していくと予想される (図5-1参照)。

出典:総務省

図5-1自営網

 

5.2 モバイルエッジコンピューティングと工場生産設備の融合

今後の事を予測する題材として、以下がある。

–        セルラー通信事業者はモバイルエッジでのデータ処理を収益機会と認識している。

–        限定的ではあるが、フェムトセルという形で基地局を私有地に設置している。

–        LPWAという通信サービスが、IoT対応等で始まっている。

 

今後、フェムトセルにエッジコンピューティングを統合し、それにクラウドコンピューティングを組合わせたサービスをセルラー通信事業者は提供することになると予想される (階層展開)。更には、低遅延を既に実現しているシステムは、工場の生産設備にそのまま導入することも可能になる (面展開)。(図5-2, 図5-3参照)

出典:NTT

図5-2 モバイルエッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの組合せ

 

 

出典:NTT

図5-3 アプリケーションに見る、モバイルエッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの組合せ

 

 

今後、Industrial Internet・産業革命4.0の進展とも相まって、セルラー事業者には広大なビジネスチャンスが広がっていると予想される。

 

5.3. 端末メーカ・半導体メーカ・ソフトベンダーの今後

セルラー技術は、今後、他の業界に浸透していくことになるが、この動きの中で、セルラー技術で強力なポジションを持つQualcommやARMはどう動くのであろうか。出遅れているIntelがどのように動くか。

 

6. 終わりに画像を追加

この新たに生まれるグリーンフィールドで、日本のIT関連テクノロジー企業 (ハードウェア、ソフトウェア、Sier)は何をするか?

ドイツの5GAAにおいても、NTT/トヨタのAutomotive Edge Computing Consortiumにおいても、日本のサービスプロバイダーの参加はあるが、テクノロジーベンダー (ソリューション、システム、ソフトウェア、ハードウェア、チップ)の参加は公けになっていない。

日本のテクノロジーベンダーの大胆な行動が望まれる。

 

 

データリソース社が推奨するITS関連・携帯電話関連市場調査レポート

 

–        モバイルエッジコンピューティング市場:ハードウェア・ソフトウェア毎、用途毎(位置情報サービス、ビデオ監視、統合通信、最適化ローカルコンテンツ配信、データ解析)、企業規模毎、地域毎 - 2022年までの世界市場予測
出版社:MarketsandMarket      発行年月:2017年8月

–        先進運転支援システム (ADAS) 市場 2016-2026年:ACC、AFL、BSM、DMS、FCW、HUD、ISA、LDW、NVS、PDS、PA、RSR、SVC、AEB、センサ別の予測
出版社:Visiongain                   発行年月:2017年8月

–        無線ネットワークの最適化:モバイルエッジコンピューティングとコンテンツ配信ネットワークの市場概観と予測、5G対応アプリ・サービスへの道
出版社:Mind Commerce         発行年月:2017年7月

–        商用車のテレマティックス市場:ソリューション毎(フリート追跡・監視、ドライバー管理、テレマティックス保険、安全・法令順守、V2Xソリューション)、サービス毎、プロバイダタイプ毎、産業毎、地域毎 - 2022年までの世界市場予測
出版社:MarketsandMarkets     発行年月:2017年7月

–        コネクテッドカー市場 2017-2027年:コネクティビティタイプ別(組込み、統合、テザリング)、サービスプロバイダ別(OEM、アフターマーケット、コネクティビティ)の予測と、通信、安全&セキュリティなどのIoTエコシステムのソリューションを提供する上位自動車メーカ(OEM)&その他の自動車会社&サプライヤの分析
出版社:Visiongain                   発行年月:2017年7月

–        コネクテッドカーの関連企業上位20社 2017年:用途別(テレマティクス、ナビゲーション、インフォテインメント)のIN-V技術(組込み、統合、テザリング)先進自動車サプライヤ、テレマティクスコントロールユニット(TCU)、LTE、bCall、eCall、GLONASS、盗難車トラッキング(SVT)、使用量ごとの保険(UBI)、遠隔操作&V2Xコミュニケーションの分析
出版社:Visiongain                   発行年月:2017年7月

 

 

C-V2Xをめぐる動き

時期 イベント
2014年12月 ETSIが、Mobile Edge Computingの標準化を開始
2015/3 3GPPがRelease12標準化を完了 (D2D通信、LTE Advanced)
2016/6/22 3GPPがNB-IoT標準化を完了 (Release13 LTE Advanced Pro)
2016/9/26 3GPP、「C-V2X」の初期仕様の標準化を完了 (LTEベース C-V2V)
2016/9/27 Audi、Daimler、Qualcomm、Ericsson、Intel、Huawei等、「5G Automotive Association (5GAA)」を結成
2017/3 3GPP、Cellular V2X標準化を完了(Release14)
2017/9 Qualcomm、C-V2Xチップを発表
2017/8/10 NTT、トヨタ、Intel、Ericsson等、「Automotive Edge Computing Consortium」を設立

 

 

ページTOPに戻る